青空リボンは 幸せを結んだリボン
青空リボンが結んでくれたもの~晴美の心情~
母親を知らない晴美にとって空色のリボンは母親からの唯一のプレゼント。ずっと大切に持っていたリボンは晴美に何をくれたのだろうか。
自分と陽子の境遇について知るために新聞記者になった晴美だが、樅の木町殺人事件について知り、自分と陽子が関わっているかもしれないと知った時は混乱したことだろう。空色リボンと一緒に持っていた手紙の内容から、母親は死んでいると思い込んでいた晴美は自分が被害者の娘だと思ったようだが、そう思った理由は他にもあるのではないだろうか。
晴美の人生は決して幸せなものではなさそうだ。どのか自分の人生に物足りなさを感じていた晴美は、親友である陽子が幸せな人生を送っていることを羨ましく感じ、どうして自分ばかり幸せになれないのだろう、と少なからず思っていたに違いない。陽子が結婚して子供にも恵まれているのに対し、晴美は不倫しているのだから。晴美は陽子のことを1番大切にしているが、陽子は結婚して新しい家族が出来て大切なものが増え、陽子にとってはもしかしたら一番は晴美ではないのかもしれない、と心の中では気がついていたのだろう。寂しく思っていたに違いない。また仕事でも陽子は大成功し世間の注目の的である。そんな陽子の幸せな人生に少しでも恵まれない点があってもいいのではないか、と口には出さずとも思っていたのだと考える。そんななか、陽子が樅の木町殺人事件の加害者の娘なのではないかと晴美の中で決定づける出来事が起こったため、そんな心情も手伝って晴美は大きな勘違いをすることになってしまった。
裕太誘拐したのは、陽子に樅の木町殺人事件の加害者の娘であることを公表してほしかった、と話しており、陽子が幸せを手放すところが見たかったのだろう。
自分が幸せでないなら陽子も幸せじゃなくなればいい、心の奥底でそう願う気持ちが晴美にこんな事件を起こさせてしまったのだろう。
しかし、裕太を誘拐してみたものの"陽子はにくい存在であるはずなのに苦しむ陽子を見るのは全然気持ちよくなかった"と話している。
それもそのはずだろう。ずっとずっと大切にしてきた友人をいくら羨ましく思い憎もうとしても、一緒に乗り越えた苦しみの数、共に過ごした幸せな時間がそうはさせてくれない。どんな真実がそこにあっても大切だと思っていた人の悲しむ顔は見たくないものだと思う。大切な人の苦しみは自分の苦しみであると晴美は知ったのではないか。
最後に判明した真実は、陽子は樅の木町殺人事件とは無関係で、加害者の娘は晴美であり、母親の弥生は生きていたということだ。
晴美が思い込んでいたのとは全く違う真実がそこにあったわけだが、自分が殺人犯の娘だということよりも死んだと思っていた母親が生きていたことが嬉しい、と晴美は話している。
この事件をとおして晴美はずっと欲しかった本物の愛いうものを知ったのだと思う。
ここからは私の個人的な意見だが、陽子のことを加害者の娘だと誤解し、息子を誘拐し社会的な立場まで奪っておいて、自分は母親に会えて嬉しいなんて随分と勝手な話だな、と思う。多少は反省している様子だったがもっともっと反省するべきなのではないだろうか。絵本作家としてデビューした陽子の将来をつぶしたのに自分は特に制裁は受けずに母親の見舞いに行っている様子は少し腹立たしく感じる。
空色のリボンは晴美にとっては幸せを結んだリボンだが、陽子にとっては必ずしもそうではないのかもしれない。
深い愛情に包まれている陽子
陽子の旦那はなんて素敵な人なのだろう。物語を読んでいて何度もそう思った。
県議会議員の正紀だが、彼にはあまり政治家らしさを感じなかった。選挙だなんだとさわいでいるのは周囲の人間ばかりだったからか、正紀からは卑怯な印象は受けなかった。不正献金疑惑もあったが私の予想通り正紀自身は不正献金はしていなかったということがわかり思わずにっこりしてしまった。
そんな正紀も陽子が樅の木町殺人事件の加害者の娘なのではないか、と裕太が生まれる前から思っていたのだという。陽子自身が気づいていないためずっと言わないようにバレないように過ごしていたのだと知ってなんて陽子は愛されているんだろう!と感動にてしまった。親の代までの不正献金が陽子に知られた時の切り札にしようと思っている、と言っていたが実際にはそうするつもりはなかったのだと思う。政治家家系であるが故に陽子に辛く当たる周囲の人から陽子をいつも守っていたのは正紀だ。本当に陽子のことを愛していたのだろう。
物語終盤にすべてを打ち明けあう陽子と正紀のやりとりの場面は2人の間の愛の大きさがよく表現されていると思う。陽子が、殺人犯の娘だと知りながらどうして一緒にいてくれたのかと訪ねた時の"陽子が一体どんな悪いことをしたんだ"と正紀が言ったセリフは私が1番好きなセリフになった。大きな愛に包まれる陽子が羨ましい。
2人の友情に境遇は関係あったのか?
この物語のタイトルにもなっている「境遇」という言葉。主人公の2人の友情にそれぞれの境遇は関係あったのだろうか?2人の境遇を比較してみたいと思う。
陽子は幼い頃から愛されて育っている。育てられた親は本当の両親ではなかったが大切に育てられていた。だからこそ本当の両親ではないと知った時はショックが大きかっただろう。それでも親に愛され、正紀という男性に愛され、裕太という子供にも恵まれた。絵本作家としても大成功し、そこそこ恵まれた人生なのではないか。
一方、晴美は18歳まで施設で育ち、親からの愛いうものを知らずに生きてきた。自分の就職活動が上手くいかないのは自分の境遇のせいだと思っていたようだが、自分は愛されたことがないと思うがゆえ自分に自信が無かったのかもしれない。1年留年するも新聞記者という職業につき自分の出生の謎について調べ始める。やりたいことは出来ているのだろう。恋愛面においては妻のいる男性と不倫している。好きな男性の1番大切な人にはなれていないのが現状。愛情に包まれている陽子とは対象的で、晴美はもしかしたら本当の愛を知らないのかもしれない。
2人が親友になったきっかけは本当の親を知らない、という同じ境遇だったからだとそれぞれ思っているようだ。お互いがお互いの家族であると認識しあえる友人がいるなんてとても幸せなことではないか。今回の事件で1度2人を繋ぐ糸は切れかけたが全ての真実が明らかになっても陽子は晴美の罪を許した。きっかけは似たような境遇にあったことだったかもしれないが、ずっと親友であり続けたことに関しては境遇は関係なく、ただお互いが大好きで大切であったからだろう。
物語の中盤で正紀との結婚に悩む陽子が
"わたしたちが親友になれたのは同じ境遇だったからなのかな"
という質問をするがこのセリフこそこの物語のテーマなのではないか。
終盤に裕太を誘拐したことを告白する前に2人が会った場面に
"境遇なんて関係ない。わたしたちは同じ境遇じゃなくても親友になれていた"
という晴美のセリフがあるが、これが物語全体を通したテーマの答えだろう。個人的には物語の最後、すべてが明らかになった時にこのセリフを聞きたかったと思う。
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