哀しい予感の評価
哀しい予感の感想
思いを心の中にとどめる、かなしみ
悲しいわけではない主人公は言いたかったんです。言うことで気持ちが開放されて心も軽くしたかったんだと思います。それに一番に気づいたのが弟である哲生で、主人公は相当嬉しかったでしょう。すでに深い部分でお互いを認め合い、欲していて、なるべくしてなったのでしょうが、きっと若いふたりにとってそれは運命的で哀しみの中で到達できた関係だったから、より特別に思えたことでしょう。悲しみは心が壊れてしまうほどの思いを口から叫ぶほどの感情を指し、哀しみは、心の中でためにためて、胸の詰まる思いを言います。しんしんと心の中に積もっていく哀しみを否定したいわけではありませんでした。その予感が正しいことを確かめに主人公はゆきのを訪ねます。そのふらっと足が向く主人公の不安定さも目の前にしっかりと存在する幸せな家族と相反していて、より際立ちます。不良というわけではありませんし、激しい抵抗でもない。それが反対に息苦しくて...この感想を読む
家族と恋人を自らの手足で発掘した主人公
十代のはじめでも読みやすい小説『哀しい予感』を読んだのは、小学校高学年か中学生のはじめ頃だったと思う。児童文学では物足りないような気になっていた頃。大人の仲間入りをしたような顔をして一般文学の棚に並んでいる小説をいくつか読んでみたら、その内容や面白さを理解できずに困ってしまった頃だ。選んだ小説が当時の自分には背伸びしすぎていたのかもしれないが、小説って難しいなと感じながら次に手に取ったのが、『哀しい予感』だった。著者は言わずもがな有名な作家だが、吉本ばななという名を知っていたから興味を持ったのか、この本を読んだからその名を覚えたのかはっきりとは覚えていない。ただ、『哀しい予感』を読んで以降、私は著者の小説を探しては次々と読んでいった。吉本ばななさんの作品がすべてそうだというわけではないが、『哀しい予感』は、子供だった私にもわかりやすかった。最初は主人公や登場人物の行動を不思議に感じたり...この感想を読む