火車のあらすじ・作品解説
火車とは、悪事をした亡者をのせて地獄に運ぶ火の車である。この物語で誰が地獄に運ばれるのか。 休職中の刑事本間のもとに、姿を消した婚約者を捜して欲しいと親戚の青年が訪ねてくる。彼女の名は、関根彰子。本間は、彰子の勤務先、アパート、以前の勤務先などを調べるうちに、何か引っかかるものを感じ、やがて青年の婚約者と彰子は別人ではないかと仮説を立てるのである。同僚や友人らの助けも借りながら、彰子と彰子に成り代わった女の足跡を辿り続ける本間だが、クレジットカード破産や住宅ローンでの夜逃げなど、高度成長期の狭間で人生を狂わされながら、ただ普通の幸せをつかみたかっただけの娘たちの姿が見えてくる。それでも、真実は明らかにされるべく舞台は整うのである。 宮部みゆきのこの作品は、1992年に小説推理に連載され、双葉社から出版され、第6回山本周五郎賞を受賞、このミステリーがすごい第1位に選ばれた。1994年、2011年にドラマ化され、2012年に韓国で映画化されたのである。
火車の評価
火車の感想
宮部みゆきの代表作
山本周五郎賞を受賞しただけあって、安定した面白さがあります。他人への成りすましは小説のネタとしては良くあるものですが、他の成りすましを扱う小説とは違うと感じました。この小説を読んで改めてクレジットカードの怖さというものを実感しました。やはり紙幣を持たずに手軽に使えるのは便利ですが、お金を使うという感覚が希薄になっているのでしょうね。作品が出た当初より今のほうがカード破産や多重債務の怖さが身近にあるような気がします。最近は電子マネーも普及してきていますしネットショッピングも増えて、現金を直接使うという感覚がより希薄になっていると感じるので今読んでも楽しめる作品だと思います。
誰でもが陥りそうなことから始まります。
白黒ハッキリするわけでもなく、劇的に何かが起こるわけでもないけれど、私たちのだれでもが陥ってしまいそうなちょっとしたことがつながっていきます。クレジットカードの多重債務も、個人情報の取り扱いも、戸籍の乗っ取りも私たちもいつ当事者になるかわかりません。本当に、最初はそれぐらい小さいことから始まっていると思います。最初は婚約者を探し始め、婚約者だと思っていた人が別人で、実は本人はなくなっていて・・・次から次へと展開していくので、一気に読めてしまいます。この終わり方を不服とする人もいるかもしれませんが、何度か読むとそれもまたいいと思えてしまいます。すごく引き込まれる本なのでぜひ読んでほしいです。
『他人』の魅力
宮部みゆきは人間を丁寧に書く作家だと思う。その丁寧さゆえに、その作品が書かれて何年経ったあとでも、読み手は登場人物を身近に感じ、親近感を抱くことができる。この作品は、その宮部みゆきの人間を書く手腕が最大限に生かされた作品だ。一人の会ったこともない女性を追うところから話が始まるが、その女性に関する情報を集めていくうちに、主人公とともに読者も、その女性のディティールに対して疑問を覚え始める。情報を集めていけば、頭の中だけでも特定の人物像が出来上がるはずなのに、女性の像は固まらないどころか余計にバラバラになって拡散していく。そうやって疑問を抱えながら、女性を追う過程がとても面白い。現実的な社会問題をベースとしながらも、『突き止める』というミステリー本来の楽しみを忘れない素晴らしい作品だ。最後のシーンも、あの部分で終わっているからこそ、読み終わったあとに広がる余韻がいい。善と悪、そう簡単に二つ...この感想を読む