火車の感想一覧
宮部 みゆきによる小説「火車」についての感想が5件掲載中です。実際に小説を読んだレビュアーによる、独自の解釈や深い考察の加わった長文レビューを読んで、作品についての新たな発見や見解を見い出してみてはいかがでしょうか。なお、内容のネタバレや結末が含まれる感想もございますのでご注意ください。
宮部みゆきの代表作
山本周五郎賞を受賞しただけあって、安定した面白さがあります。他人への成りすましは小説のネタとしては良くあるものですが、他の成りすましを扱う小説とは違うと感じました。この小説を読んで改めてクレジットカードの怖さというものを実感しました。やはり紙幣を持たずに手軽に使えるのは便利ですが、お金を使うという感覚が希薄になっているのでしょうね。作品が出た当初より今のほうがカード破産や多重債務の怖さが身近にあるような気がします。最近は電子マネーも普及してきていますしネットショッピングも増えて、現金を直接使うという感覚がより希薄になっていると感じるので今読んでも楽しめる作品だと思います。
誰でもが陥りそうなことから始まります。
白黒ハッキリするわけでもなく、劇的に何かが起こるわけでもないけれど、私たちのだれでもが陥ってしまいそうなちょっとしたことがつながっていきます。クレジットカードの多重債務も、個人情報の取り扱いも、戸籍の乗っ取りも私たちもいつ当事者になるかわかりません。本当に、最初はそれぐらい小さいことから始まっていると思います。最初は婚約者を探し始め、婚約者だと思っていた人が別人で、実は本人はなくなっていて・・・次から次へと展開していくので、一気に読めてしまいます。この終わり方を不服とする人もいるかもしれませんが、何度か読むとそれもまたいいと思えてしまいます。すごく引き込まれる本なのでぜひ読んでほしいです。
『他人』の魅力
宮部みゆきは人間を丁寧に書く作家だと思う。その丁寧さゆえに、その作品が書かれて何年経ったあとでも、読み手は登場人物を身近に感じ、親近感を抱くことができる。この作品は、その宮部みゆきの人間を書く手腕が最大限に生かされた作品だ。一人の会ったこともない女性を追うところから話が始まるが、その女性に関する情報を集めていくうちに、主人公とともに読者も、その女性のディティールに対して疑問を覚え始める。情報を集めていけば、頭の中だけでも特定の人物像が出来上がるはずなのに、女性の像は固まらないどころか余計にバラバラになって拡散していく。そうやって疑問を抱えながら、女性を追う過程がとても面白い。現実的な社会問題をベースとしながらも、『突き止める』というミステリー本来の楽しみを忘れない素晴らしい作品だ。最後のシーンも、あの部分で終わっているからこそ、読み終わったあとに広がる余韻がいい。善と悪、そう簡単に二つ...この感想を読む
お金に翻弄される現代の世相を描いています
自己破産、多重債務という、現代社会の裏に潜む闇を扱っており、薄ら寒さを感じさせる内容ですが、一気に読めてしまいます。自己破産をし、転々と逃げる関根彰子は、水商売にも手を出していた。清楚で美しい外見の女性が、そのような仕事までしていたのはなぜか、どんどん気になって、先を読んでしまいます。事件を追う休職中の刑事、本間のキャラクターの描き方も、相変わらずうまいと思います。宮部みゆきのミステリーは、キャラクター設定が絶妙で、人間味あふれた個性的な人物が登場するので、悲惨な事件を扱っていても、どこか暖かさがあります。宮部みゆきファンなら、一度は読んでおくべきミステリーです。
人間の見えない恐怖を感じる作品
宮部みゆきのミステリー小説で、第6回山本周五郎賞にも選ばれた作品。作品が描かれた90年代前半に社会問題として取り上げられていた多重債務や自己破産などをテーマにした作品で、人間に潜む闇と影の怖さが伝わる作品で、犯人を追いこむように読み手として、どんどん嵌っていくのが感じ取れます。元々、消息不明となった女性「関根彰子」を探すところから始まるわけですが、一人の女性が都会で住む上で、華やかさの陰にお金に翻弄される様を見ることができます。そして、その女性を探し当てていくのですが、その女性自身、本物なのか偽者なのか展開がとても面白いです。宮部みゆきファンでなくても、リアルな人間ドラマに隠れるミステリー作品としてお勧め致します。