こういう危ういときに、生まれつきを敲き直しておかないと、生涯不安でしまうよ。いくら勉強しても、学者になっても取り返しはつかない。ここだよ、小野さん、真面目になるのは。
宗近一
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虞美人草は明治時代の東京を舞台にした夏目漱石の小説で、漱石が作家として初めて書いた作品である。 外交官を目指す宗近一と詩才のある友人、小野清三にはそれぞれ結婚すべき相手がいる。宗近には藤尾、小野清三には京都にいる恩師の娘の小夜子。 藤尾は他人によって決められた宗近との結婚に意味を見出せずにいた。それよりも自分と同じように詩を書き、さらに詩の世界で前途有望な小野に魅力を感じるようになる。一方、小野は恩師の娘と言えど小夜子との結婚はあまり気が進まなかった。小夜子はもちろん悪い女性ではなかったし、恩師の娘である以上結婚して然るべきなのは分かるのだが、小野にとって小夜子は自己表現しない退屈な人間に見えるのだった。 やがて藤尾は宗近ではなく小野に近づくようになり、小野もまた藤尾との距離を徐々に縮めていく。そんな中、小野の恩師、孤道と小夜子が京都から上京してくる。物語は小野と藤尾の関係を中心に、明治時代に生きる男女の心理を描写していく。
文章に難解な部分が多いがじっくり読むと素晴らしい。漱石の初めて手掛けた小説として、職業作家になって最初の作品ということで、しっかりと長編で読み応えがある。「坊ちゃん」や「吾輩は猫である」のイメージが強いが、この作品も男女の切ない関係を描写していて、「漱石はロマンチストだったのだなぁ」と、いつも思う。最初はとにかく美しい文章に目が眩んで、至福の一時を味わっていましたが、人前だったので、文字通り涙を流したわけではないけれど、久しく感じたことのない感動を味わった。これは著者の代表作ではないのかも知れないけれど、それでもとても素晴らしい作品でした。
職業作家というあまり聞きなれない感じのものになって第一作目の作品とはいえ、しっかりとした内容。読みやすい文章。おかげで読み応えもばっちし!漱石さんが新聞社と掛け持ちで作った作品ではあるが、新聞掲載を意識したのか・・・ちょっと前半部分が急ぎすぎているような気もする。まぁ先走りってやつはどんな時代でもやってしまうもんですけどね。それほど漱石さんも若かったんでしょう。人間関係とか場面とか慌ただしく変化するため若干わかりにくくなるところがちょっと私の評価を下げた原因でもあります。でも最初の先走りなところを無事に通過することができたとき、この物語の良さが一気に押し寄せてくる。読み手によっては面白く、痛快、深みを味わえる作品。散りばめられているものがたまに不快に思ったりもするが彼の若さに免じて許してしまう作品とも言える。
物語はありがちな人間関係のもつれです。夏目漱石の小説にはたびたび、古い慣習にとらわれない「新しい女性」が描かれます。この虞美人草にも藤尾という新しい人が描かれています。一方で昔の女も登場させ、二人の間で揺れ動く優柔不断な男小野は、いかにもだめなやつに見えます。漱石は藤尾が嫌いなんだそうで、憎さ余って殺してしまったのかはわかりませんが、私にはただの悪女には思えませんでした。彼女が死ぬシーンで抱一の屏風の描写がありますが、この屏風は実在しないそうです。でもありありとその屏風を頭に浮かべることができるのが、漱石の文章のすごさの一端を見た気がしました。でも実物が見てみたいです。
宗近一
自身の結婚において自分を中心とした損得しか考えることが出来ずいつまでも心が定まらない小野清三に対して、宗近一が親切心から言う言葉です。
宗近一
宗近一が小野に対して、人間がいかなる場合において真面目になるべきか、また真面目になる事とはどういう事かを噛み砕いて分かり易く話している場面です。
甲野欽吾
宗近と山を登る途中で男女について交わした言葉。