木曜日になるたびに思い出す
女5人の個性
書き分けていらっしゃるのがすごいとまず読み終わってから思いました。そして何故だかリーガルハイを思い出しました。それはきっと「結局のところ真実は一体何だったの?」という疑問が残ったからだと思います。絵里子が主軸になり、裏で操るえい子、全体を把握する静子。この3人がまず腹黒いなあと。えい子が一番の親玉なんですが、表で助ける絵里子を抜擢するあたり、えい子の性格判断や立場の分析力はすごいと感心しました。長年見てきたからということもあるでしょうが、作品中では数日の関係だと絵里子は言っています。その数日で人の本質というか、芯の部分を見抜く力は辣腕編集者という肩書きに恥じない能力だと羨ましく思いました。女が5人も集まれば話は尽きないだろうこの時子を偲ぶ会は4年目にして雰囲気がガラッと変わる。そのタイミングを見計らう計画性や、人の心理を転がすまさに匠の技に私自身読んでいて翻弄され、早く結末を迎えたいと一気に読んでしまいました。その中で、最初こそ5人の個性をなかなか掴めず、頭を整理しながら読み進めていったのですが、だんだんと誰を中心に話が回っているかの偏りが見え始め、最後ではようやく終わったと満足感のあるため息をつきました。もちろん、最後の最後に仕組まれていたことだと知ったときは思わず二度見してしまうほど驚きましたが。5人が5人、それぞれの道へと戻っていく様子が光に向かって歩むようなイメージが浮かびました。5本の道がそれぞれ束になる来年の木曜日を私も心待ちしています。
巨匠であり続けること
時子の作品に手を加えるようになったとえい子は告白します。そして何故もっと上手く書けないのかと罵倒されたことも明かしました。今まで読んできた作品がもし編集者の手を借りている作品だったら。それに感動して涙を流していたら。またはその作家さんを心から尊敬していたら。私は騙されたとは嘆きません。何故なら良い作品だったという感想を持つからです。別に構わない、とまでは言いませんが、その作品が混迷極める駄作でない限り、私は共同作品でもありだと思います。駄作という価値観も人それぞれですし、作家さんが抱えている悩みは読者にとってしてみれば取るに足らないことの方が多いのではないでしょうか。私は作家ではないですし、その家族でも仕事の関係者でもないので全て私の考えなのですが、きっとそれでは収まりのつかない事情が裏では起こっているのだなあとこの作品を読んで思いました。確かに、その作家さんの名前を借りて売り出されているものが実は違う作家さんが書いていました、という事実であれば、私はどういうことだろうと疑問には思います。この問題をブランド物に変えてみると話が簡単です。せっかくお気に入りのブランド物を買ったのに、蓋を開けてみれば違うブランドの物でした、という行為は詐欺に近いと思います。高価なものであれば騙された!と思うかもしれません。しかし、支払った対価とそのものの価値が等しかったらあまり文句も言わないでしょう。こだわりがない私では良い参考例にはなりませんが。本当に作者を愛して作品を愛読しているファンであれば、それは悲しい作業なんですよね。時子は一体何をしたかったんでしょう。重松時子という存在のプレッシャーに自己の体調不良が加わり、プライドで逃げ場もなければ責任転嫁して防衛するのも頷けます。しかし、そんなにも幼稚で脆弱な人格だったのか、はたまた物書きとして生計を立てている姪や妹が周りにいなかったら、こうはなっていなかったのではないか、とも思うのです。
言葉の一言一言に意味がある、気がする
一文一文逃さずに答えまでのヒントになるのではないかとかなりアンテナを立てて読みました。自分の読みは当たっても外れてもいません。むしろ物語の勢いが激しすぎて自分の想像がついていけないというのが現状です。恩田陸先生はわかりやすい伏線を張っているわけではないというのは、ミステリー初心者の私だけでしょうか。確かにあの場面がきっかけでそれに気がついたのか、とあとあと結びつくことはあっても、恩田陸先生が隠し持っている事実が多い気もします。読解力の無さでしょうか。そのせいで何気ない風景描写や登場人物の仕草が気になり、神経をとがらせていました。一体みんなの目的はなんなのだろう、純粋に憧れているから集まるのか。若干の人間不信に陥りました、作品を読んでいる間は。あとこんなことを思い出しました。昔、図書館でアルバイトをしていたころ、アガサクリスティの文庫本に落書きがされてありました。赤いラインが引っ張られて、登場人物の紹介が目次に丁寧に書かれてありました。そして最後のページを開くと、きちんと犯人の名前まで書いてありました。私は当時憤慨し、図書館の本になんてことをするんだろうと必死に落書きを消していました。しかし、線を引っ張ったり文章をマーカーしたい気持ちが今ならわかります。私はしませんが。どこか引っかかる文章があればチェックして、自分なりに推理する。ミステリー小説にようやく慣れてきて、嬉しい限りです。
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