八日目の蝉は、ほかの蝉には見られなかったものを見られるんだから。見たくないって思うかもしれないけど、でも、ぎゅっと目を閉じてなくちゃいけないほどにひどいものばかりでもないと、私は思うよ
安藤千草
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八日目の蝉は、2005年11月21日から2006年7月24日まで読売新聞の夕刊に連載された、「母性」をテーマにした角田光代によるサスペンス小説で、誘拐犯の女と誘拐された少女との逃亡劇と、その後の運命を描いている。第二回中央公論文芸賞受賞作品でもある。2010年には、壇れい主演でNHKよりドラマ化され、2011年には、井上真央主演で映画化されている。 不倫相手の子供を身ごもり、堕胎した経験から、子供が産めない体になってしまった希和子は、その不倫相手の妻が出産した赤ちゃんを衝動的に誘拐してしまう。希和子はその赤ちゃんに「薫」と名づけ、逃げ続けてきた小豆島を安住の地と生活していたが、希和子と薫のふたりの幸せな生活は、ある出来事で4年で終わってしまう。その後、大人になった薫(のち恵里菜)の葛藤も描かれている。 紀伊國屋書店の2011年(集計2010年12月~2011年11月)のベストセラーランキングの文庫部門で1位になっている。
倒叙小説としての面白さ本作は、『紙の月』『対岸の彼女』など多くの作品が映像化されるなど、今や人気作家としての地位を確固たるものとした角田光代の作品です。映画化もされた『八日目の蝉』は、そのショッキングな内容から世代性別問わず多くの反響を産みました。この作品は大きく二つに分けられており、前半は不倫相手の子供を誘拐して自分の子供として育てる希和子の視点。後半は幼少時代を誘拐されて育った薫(恵理菜)の視点で描かれています。このように、犯人の視点で描かれる小説は「倒叙小説」と呼ばれ、東野圭吾の『殺人の門』や『容疑者Xの献身』などが有名です。フーダニット(誰がやったか)ではなく、ホワイダニット(なぜやったか)に焦点が当たるため、読者の共感が犯人に向かうことが多いのが特徴です。本作でも、悪人であるはずの希和子がいかに薫を慈しんで育てていたかが詳細に描かれているため、希和子と薫を引き離す警察が悪人に見...この感想を読む
主人公の希和子は、自分の愛人と妻の間に生まれた赤ちゃんを誘拐してしまいます。そして、その子を我が子として育てるのです。母性は、どうやって生まれるのか?子供を産めば自動的に母性が生まれて母親になれるのか?この本を読み終わっても、自分の中の明確な答えはでませんでした。子供との生活を守るために必死になる希和子、自分が捕まった時に、自分より子供の心配をする彼女、確かに母親的な行動だと思うけれどこの子の将来の責任を負っての母親の行動としては誘拐は、やはり間違っていたのではないかと思ったりもしました。難しいです。実の母親も、戻ってきた子供とに対する母性がきちんと出ていたと言えなかったと思うけれど可愛い時期の空白を思うと、それを求めるのも酷かなと思ったりもしました。
小説でも、映画でも、両方感動し、両方涙。そんなストーリーって、なかなかないのではないでしょうか。私の心にグサッと来たのが(以下ネタバレ)「あの子はまだ朝ご飯を食べてないの」的な、終盤のセリフ。自分が警察に捕まった状況において、少女の朝ご飯の心配をしてしまうというところに、愛情の深さを感じました。このシーンだけでなく、「好き」だとか「大切」だとか、そういう言葉を使わずに、愛情の深さを表現できており、筆力が素晴らしいなぁと思います。これを読んだ時、小さい子どもってこんなに可愛いんだ、と思いました。自分自身が母親になった今、また読みたい小説No.1です。
安藤千草
千草が子供を堕ろそうと悩む主人公にかけた言葉。 多くの蝉は地上に出て7日で死んでしまう。普通からはみ出した8日目を生き抜く勇気を伝えようした言葉。
野々宮希和子
誘拐した女の子と親子のように過ごし、警察の目から逃げようとしているところを見つかり、女の子と引き離される。自分が誘拐犯として警察に捕まろうとしているというときに、希和子が叫んだ言葉。自分の心配より、女の子の朝ごはんの心配をしていた希和子。