博士の愛した数式のあらすじ・作品解説
『博士の愛した数式』は2003年に新潮社から刊行された小川洋子の小説である。第55回読売文学賞及び書店員の選ぶ「本屋大賞」の第1回受賞作品となった。寺尾聰、深津絵里らのキャストによって2006年に映画化され、2009年には英語版も出版された。 物語は家政婦として働く「私」が、新しく紹介された派遣先の家で元天才数学者「博士」と出会うことで始まる。博士は交通事故の後遺症により80分しか記憶がもたないため、毎朝「私」が家に訪れる度に名前や生年月日を聞き、初対面の人として挨拶をする。その他にも大事なことを忘れないために体中にクリップでメモを留めたりと、その異様な姿と行動に初めは驚き戸惑いを見せる「私」だが、博士の数学に対するひたむきな姿勢、そして周囲に対する溢れる優しさに触れることで次第に穏やかな時間を共に過ごすになる。そして博士の配慮から「私」の息子も同じ時を過ごすようになり、物語は3人の何気ない、心温まる日常の中で展開していく。
博士の愛した数式の評価
博士の愛した数式の感想
2冠にふさわしい、小川洋子代表作
現代を支配するSNSより強い繋がり2016年現在、日本の多くの人がスマートフォンを持ち、いろいろなSNSで繋がりを保っている。私はたまたま個人的なきっかけがあり、際限なく時間を奪っていくこのツールが面倒になったので半年ほど前に全てやめてしまった。自営業(&比較的自由業)で仕事をしているが、多くの場合PCのメールと電話で事足りるのを再認識し、自分の時間が大事にできている、と今は実感している。更に必要以上の「繋がり」は文章のプロを目指す自分にとって創造に専念する妨げになる、と知った。そんな中でこの「博士の愛した数式」を数年ぶりに再読した。作中で博士と「私」を純粋に結び付けているのは、お話の中盤まで「家政婦としての契約」のみである。「私」の側からすれば毎日記憶は積み上げられていき、博士に対する友愛も生まれるのだが、博士側が毎日リセットされるため、結果的に毎日彼女たちの関係もリセットされている。し...この感想を読む
博士の世界はどんな風なんだろう
春の暖かい日差しのような映画だったので、原作の小説はどんな風なんだろうと思い読みました。文章と映像で表現できるものは違うはずなのに、空気感が同じというか、暖かい、春の日差しのような小説でした。優しい物語で、読むことによって癒されていきます。子供の頭がペッタンコだからルートとあだ名を付ける場面がとても好きです。何度も何度も付けられることになります。博士が80分しか記憶が続かないからです。80分しか記憶が続かない世界は、幸せなのか不幸なのか、わからないけれど、母子との触れ合いの中での博士は幸せそうでした。癒し系の小説なので、ほっこりしたい時に読むのが良いかも知れません。
記憶
珍しく、母が読んで私に貸してくれた本。舞台は現代、そして登場人物もごく普通の人々。大きな事件も怒らず、派手なクライマックスもないけれど心に静かに残る物語。人は記憶の積み重ねで生きているといっても過言ではないような気がします。記憶があやふやになったり、失われたり、積み重ねていけなくなったときに周りとの人間関係や社会生活を維持していくのはとても難しいことのように思います。よく聞く、アルツハイマーや記憶喪失とはまた違った博士の状態は、家の中で日常生活を送る上では大きな不便はないのかもしれませんが周りの女性達の気持ちは様々なようです。淡い恋心かな。