八日目の蝉の感想一覧
角田 光代による小説「八日目の蝉」についての感想が6件掲載中です。実際に小説を読んだレビュアーによる、独自の解釈や深い考察の加わった長文レビューを読んで、作品についての新たな発見や見解を見い出してみてはいかがでしょうか。なお、内容のネタバレや結末が含まれる感想もございますのでご注意ください。
被害者視点で読む、本作の魅力
倒叙小説としての面白さ本作は、『紙の月』『対岸の彼女』など多くの作品が映像化されるなど、今や人気作家としての地位を確固たるものとした角田光代の作品です。映画化もされた『八日目の蝉』は、そのショッキングな内容から世代性別問わず多くの反響を産みました。この作品は大きく二つに分けられており、前半は不倫相手の子供を誘拐して自分の子供として育てる希和子の視点。後半は幼少時代を誘拐されて育った薫(恵理菜)の視点で描かれています。このように、犯人の視点で描かれる小説は「倒叙小説」と呼ばれ、東野圭吾の『殺人の門』や『容疑者Xの献身』などが有名です。フーダニット(誰がやったか)ではなく、ホワイダニット(なぜやったか)に焦点が当たるため、読者の共感が犯人に向かうことが多いのが特徴です。本作でも、悪人であるはずの希和子がいかに薫を慈しんで育てていたかが詳細に描かれているため、希和子と薫を引き離す警察が悪人に見...この感想を読む
母性はどこからやってくるのか。
主人公の希和子は、自分の愛人と妻の間に生まれた赤ちゃんを誘拐してしまいます。そして、その子を我が子として育てるのです。母性は、どうやって生まれるのか?子供を産めば自動的に母性が生まれて母親になれるのか?この本を読み終わっても、自分の中の明確な答えはでませんでした。子供との生活を守るために必死になる希和子、自分が捕まった時に、自分より子供の心配をする彼女、確かに母親的な行動だと思うけれどこの子の将来の責任を負っての母親の行動としては誘拐は、やはり間違っていたのではないかと思ったりもしました。難しいです。実の母親も、戻ってきた子供とに対する母性がきちんと出ていたと言えなかったと思うけれど可愛い時期の空白を思うと、それを求めるのも酷かなと思ったりもしました。
泣きました。
小説でも、映画でも、両方感動し、両方涙。そんなストーリーって、なかなかないのではないでしょうか。私の心にグサッと来たのが(以下ネタバレ)「あの子はまだ朝ご飯を食べてないの」的な、終盤のセリフ。自分が警察に捕まった状況において、少女の朝ご飯の心配をしてしまうというところに、愛情の深さを感じました。このシーンだけでなく、「好き」だとか「大切」だとか、そういう言葉を使わずに、愛情の深さを表現できており、筆力が素晴らしいなぁと思います。これを読んだ時、小さい子どもってこんなに可愛いんだ、と思いました。自分自身が母親になった今、また読みたい小説No.1です。
親子の定義とは
不倫相手の赤ん坊を衝動的に誘拐してしまい、捜査の手を逃れながら子供に薫と名づけ懸命に育てる主人公 希和子。その子は、何も知らず、希和子を母親と思って大きくなります。しかし、小豆島に逃げたところで主人公は警察につかまり、子供は本当の親元に帰されます。信じていた世界が一転し、いきなり「本当の両親」に戸惑う薫。実の両親の家庭がギスギスしていることもあり、薫はずっと希和子といたほうが、真実を知らないほうが幸せだったのではないか、と思う反面、誘拐された側の母親の心情を考えれば、気が狂わんばかりだろうとも思う。夫の不倫のせいであればなおさら。親子って何だろう?母親って何だろう?と考えさせられる作品です。
壮絶
映画化されたこの物語を先に見て、そのあとに原作であるこの本を読みました。映画を見た後だったからか、イメージがわきやすく、それでいてはっきりとした文章で情景描写がよく描かれていました。終わった後はなんともいえない気持ちになって、もう一度読み返しました。色々な愛が描かれていたんではないかと私は感じました。逃亡生活ではあるのですが、誘拐されたこどもの目線で書かれているところは胸が締め付けられるような、本を読んで初めての感覚を味わいました。この物語を書いているときの作者はどのような気持ちだったのだろうか、などと小説の内容だけでなく作者にも興味をひかれた作品でした。
母性とは何かを考えさせられます
映画やドラマにもなっている有名な作品です。不倫の愛人の子供を誘拐した若い女性が、誘拐した子供を本当の子供のように可愛がり、逃亡生活を続けるという話です。前半は、誘拐した女性の目線からずっと語られているので、読んでいると、だんだんこの女性の肩を持つようになってしまいます。誘拐した女性は、子供を本当に可愛いと思っていて、その思いが痛いほど伝わってきます。このような形でなければ、いい親子だったろうと、途中で何度も涙が出てきました。後半は、本当の親元に帰った子供が大人に成長した様子が語られます。当然ながら、異常な育ち方をしているので、本当の親子であっても、心を開く事ができず、辛い生活となります。母性とは何なのか、本当の親子とは何か、色々なテーマを突きつけられ、心にずっしりとくる作品です。