評価は真っ二つ、世界観を好きになれるかどうか
ツッコミどころが多すぎる世界観
そもそも平和ボケした日本人が、争いごとや戦争を舞台に作品を作りたいと思った時、無理やりにでも悪党を仕立て上げ、それに対抗するというシチュエーションを構成しなければならない。
それができない場合、どうしても第二次世界大戦など、実際に起きた史実を基に作品を作るしかなくなってしまう。そういう意味では、この作品の原作である小説も、軍隊の上官と部下の恋愛も描きたいという事になると第二次世界大戦では描けないため、架空の戦争状態を現代日本において作りあげ、それに立ち向かうための軍隊なるものを設立しておかねばならない。そうでなければ自衛隊を取材して、自衛隊物の作品を描くしかないだろうと思う。
この作品の原作小説に限ったことではなく、家庭用ゲームのRPGや、子供が観る戦隊もののヒーローなどもそうであるが、近年単純に世界征服を狙っている悪者という悪党は語りつくされてしまった感があるせいか、やたら悪党の設定が複雑化している傾向がある。
この作品の悪党とされる立場も、言論の自由を奪い、禁止用語が書かれた本を国民から奪い取る悪なのであるが、作品の序盤から疑問に感じるのは、本を奪う奪わないに武力などそもそも必要なのだろうかという点である。図書館に昔から置いてある大事な本を始末されそうになれば、誰だって嫌な気持ちにはなるだろうし、抵抗する者が出るのも理解できるのだが、武力を行使してまでという点に違和感や大袈裟な感じが否めない。
例えば第二次世界大戦中の様な思想に対する統制があり、本に限らず言動や手紙などあらゆるものに検閲が入って、問題があるものに暴行を加えられる、処分が命じられるなどがあるというのならわかる。しかし、本だけに思想の自由が統制され、本だけを守るために「図書隊」なるものがいる、というのはいささか不可解である。
どうせなら独裁者が現れて思想全てに統制がされ、独裁者に抗う組織と体制があってという方がリアリティがあったのではないだろうか。読み物である本というインドアなツールが、どうしても戦争に結びつかず、戦闘シーンなどがどうも茶番に思えてしまう。ただ、こう言った架空の世界観に違和感がない場合は、特に背景について深く考えずに楽しめるのではないだろうか。
著者が本当に描きたいものを結晶させた結果、このような作風になったのだと思う。
岡田准一さんの永遠の0との比較
この作品が公開された2013年に、この作品の主役岡田准一さんの主演作品「永遠の0」が公開されている。そのせいもあるが、あまりに永遠の0が史実の戦争に基づいた過酷な現実を描いたもののせいか、戦争というものの表現の薄っぺらさが浮き彫りになってしまっているように感じる。
本当の戦争というものは、どちらが一方的に悪いという事はない。有名なギャグ漫画のドラえもんの作中、「ご先祖様がんばれ」という回で、ドラえもんが「どっちも自分が正しいと思っているよ、戦争なんてそんなもんだよ」と言っているが、第二次世界大戦はまさしくどの国もそう思って戦っていたのではないだろうか。
ところが、図書館戦争では良化隊という本を取り締まる側が一方的に悪だという描写になっている。しかし、良化隊にだって言い分はあったのではないだろうか?そのあたりの世界観が、単に悪党を作り出しているという感じになってしまうせいか、堂上教官のかっこよさが、永遠の0の宮部に比べると、どうもかすんでしまうのである。
最終兵器彼女との共通点
良化隊側の言い分がいまいちしっかり描かれず、一方的に悪とされていることについては、理由としてこの作品が描きたいところが、笠原郁と堂上教官の恋愛だったからに他ならない。
そういう意味では、戦う理由がいまいちわからないが、どうも戦争が起こっていて戦っているらしいという描写しかない最終兵器彼女と非常に近い表現方法が取られている。
表現したいことにフォーカスできればその他の世界観の解釈は読者に任せるという手法だが、これも作品全体を考えた時に、好き嫌いで評価が分かれるところであろう。
頭ポンポンも評価真っ二つ
最近は壁ドンだの、袖クルだの、男性が女性にやるしぐさを名詞化した流行語もあるほどであるが、この作品の恋愛のキーになっている頭ポンポン(髪をクシャクシャ、とでも言おうか)も、最近の自尊心が強い女性からは意見が真っ二つであろう。頭を撫でられるのが好きという人もいるが、馬鹿にしているのかと捉える女性もいるので、後者の女性は知らない男性が頭をなでてきたところで、王子様と受け止めるかは多分に疑問である。そもそも王子様という羨望の対象への比喩も死語に近いのではないか。
結果的には相手が岡田准一さんだったので視聴者の納得が得られていると言っても過言ではない。
小説媒体の方が楽しめるのでは
この作品の様な、実際にはあり得ない世界観の作品は、かえって視覚化してしまうより、若者向けのライトノベルの様な媒体の方が、読み手の想像力で膨らませてもらえる部分もあり、適しているようにも思う。実写にしたとたんにリアリティがなくなるという事例はよくあるものだが、同じ軍事ものだと戦国自衛隊などもそのたぐいと言えそうだ。
実写化するほど若者に人気があったことは評価できるが、30代以上の大人の視聴に耐えうるかというと非常に厳しいと言わざるを得ない。それだけ観る側が戦争や社会背景に対し、洞察力や知識を持つようになってきており、作品の背景作りが難しくなってきているということを証明した作品といえるだろう。
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