評価は真っ二つ、世界観を好きになれるかどうか - 図書館戦争の感想

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図書館戦争

3.883.88
映像
3.75
脚本
3.25
キャスト
4.50
音楽
3.38
演出
3.50
感想数
4
観た人
6

評価は真っ二つ、世界観を好きになれるかどうか

3.03.0
映像
2.5
脚本
2.0
キャスト
4.0
音楽
3.0
演出
2.0

目次

ツッコミどころが多すぎる世界観

そもそも平和ボケした日本人が、争いごとや戦争を舞台に作品を作りたいと思った時、無理やりにでも悪党を仕立て上げ、それに対抗するというシチュエーションを構成しなければならない。

それができない場合、どうしても第二次世界大戦など、実際に起きた史実を基に作品を作るしかなくなってしまう。そういう意味では、この作品の原作である小説も、軍隊の上官と部下の恋愛も描きたいという事になると第二次世界大戦では描けないため、架空の戦争状態を現代日本において作りあげ、それに立ち向かうための軍隊なるものを設立しておかねばならない。そうでなければ自衛隊を取材して、自衛隊物の作品を描くしかないだろうと思う。

この作品の原作小説に限ったことではなく、家庭用ゲームのRPGや、子供が観る戦隊もののヒーローなどもそうであるが、近年単純に世界征服を狙っている悪者という悪党は語りつくされてしまった感があるせいか、やたら悪党の設定が複雑化している傾向がある。

この作品の悪党とされる立場も、言論の自由を奪い、禁止用語が書かれた本を国民から奪い取る悪なのであるが、作品の序盤から疑問に感じるのは、本を奪う奪わないに武力などそもそも必要なのだろうかという点である。図書館に昔から置いてある大事な本を始末されそうになれば、誰だって嫌な気持ちにはなるだろうし、抵抗する者が出るのも理解できるのだが、武力を行使してまでという点に違和感や大袈裟な感じが否めない。

例えば第二次世界大戦中の様な思想に対する統制があり、本に限らず言動や手紙などあらゆるものに検閲が入って、問題があるものに暴行を加えられる、処分が命じられるなどがあるというのならわかる。しかし、本だけに思想の自由が統制され、本だけを守るために「図書隊」なるものがいる、というのはいささか不可解である。

どうせなら独裁者が現れて思想全てに統制がされ、独裁者に抗う組織と体制があってという方がリアリティがあったのではないだろうか。読み物である本というインドアなツールが、どうしても戦争に結びつかず、戦闘シーンなどがどうも茶番に思えてしまう。ただ、こう言った架空の世界観に違和感がない場合は、特に背景について深く考えずに楽しめるのではないだろうか。

著者が本当に描きたいものを結晶させた結果、このような作風になったのだと思う。

岡田准一さんの永遠の0との比較

この作品が公開された2013年に、この作品の主役岡田准一さんの主演作品「永遠の0」が公開されている。そのせいもあるが、あまりに永遠の0が史実の戦争に基づいた過酷な現実を描いたもののせいか、戦争というものの表現の薄っぺらさが浮き彫りになってしまっているように感じる。

本当の戦争というものは、どちらが一方的に悪いという事はない。有名なギャグ漫画のドラえもんの作中、「ご先祖様がんばれ」という回で、ドラえもんが「どっちも自分が正しいと思っているよ、戦争なんてそんなもんだよ」と言っているが、第二次世界大戦はまさしくどの国もそう思って戦っていたのではないだろうか。

ところが、図書館戦争では良化隊という本を取り締まる側が一方的に悪だという描写になっている。しかし、良化隊にだって言い分はあったのではないだろうか?そのあたりの世界観が、単に悪党を作り出しているという感じになってしまうせいか、堂上教官のかっこよさが、永遠の0の宮部に比べると、どうもかすんでしまうのである。

最終兵器彼女との共通点

良化隊側の言い分がいまいちしっかり描かれず、一方的に悪とされていることについては、理由としてこの作品が描きたいところが、笠原郁と堂上教官の恋愛だったからに他ならない。

そういう意味では、戦う理由がいまいちわからないが、どうも戦争が起こっていて戦っているらしいという描写しかない最終兵器彼女と非常に近い表現方法が取られている。

表現したいことにフォーカスできればその他の世界観の解釈は読者に任せるという手法だが、これも作品全体を考えた時に、好き嫌いで評価が分かれるところであろう。

頭ポンポンも評価真っ二つ

最近は壁ドンだの、袖クルだの、男性が女性にやるしぐさを名詞化した流行語もあるほどであるが、この作品の恋愛のキーになっている頭ポンポン(髪をクシャクシャ、とでも言おうか)も、最近の自尊心が強い女性からは意見が真っ二つであろう。頭を撫でられるのが好きという人もいるが、馬鹿にしているのかと捉える女性もいるので、後者の女性は知らない男性が頭をなでてきたところで、王子様と受け止めるかは多分に疑問である。そもそも王子様という羨望の対象への比喩も死語に近いのではないか。

結果的には相手が岡田准一さんだったので視聴者の納得が得られていると言っても過言ではない。

小説媒体の方が楽しめるのでは

この作品の様な、実際にはあり得ない世界観の作品は、かえって視覚化してしまうより、若者向けのライトノベルの様な媒体の方が、読み手の想像力で膨らませてもらえる部分もあり、適しているようにも思う。実写にしたとたんにリアリティがなくなるという事例はよくあるものだが、同じ軍事ものだと戦国自衛隊などもそのたぐいと言えそうだ。

実写化するほど若者に人気があったことは評価できるが、30代以上の大人の視聴に耐えうるかというと非常に厳しいと言わざるを得ない。それだけ観る側が戦争や社会背景に対し、洞察力や知識を持つようになってきており、作品の背景作りが難しくなってきているということを証明した作品といえるだろう。

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他のレビュアーの感想・評価

最高のツンデレ

キュンキュンしたい人必見! 「最近ときめいてないなー」と思う女性のみなさん、図書館戦争ですよ!あなたに今必要なのは!検閲に関する社会派映画とか男性向けのアクション映画だと思ったら、大間違い!いや、間違いではないですが、見方によっては究極のラブストーリーです。激甘恋愛映画です。いつもは厳しいけど、本当は優しい…そして、ピンチの時には必ず駆けつけてくれる…そんな王子さまみたいな年上男性なんて、嫌いな女子がいますか?!いや、いないはず!大好物のはず!!堂上教官ですよ、今のあなたに必要なのは!現実世界で辛いことがあったとき、仕事で「男がムカつくなー」と思ったとき、画面の向こう側に堂上教官がいますよ!V6の岡田くんが好きじゃない人も、アンチジャニーズの人も、きっと堂上教官にはときめきますよ!実際、私はV6では森田剛くんファンなのですが、堂上教官に出会ってから(?)は、岡田くんに浮気気味です。堂上教官が...この感想を読む

4.54.5
  • もももも
  • 217view
  • 2049文字
PICKUP

図書館戦争

漫画や小説が映画化したものはよく「原作と違う」、「キャストがあってない」、「中途半端」などという意見が出ますが、この作品はあまりそのように感じることはありませんでした。確かにすこしあれ?って思うところはあったけれど、絵や文面から読み取れなかった激しい銃撃戦や体を本を守る、意志を貫こうとする姿がこの映画でこそでるカッコ良さがあった。主人公である郁の成長や思いが現れるシーンはもちろんだが、郁が図書隊員にあこがれたきっかけとなる図書隊員との出会い、郁のちょっとバカっぽい行動や発言がこの作品の素敵なところの1つである。舞台となった図書館もとても魅力的だった。私の中であまり見たことのない図書館だったので、物語にも負けない背景がとても好きでした。上映後には、実際に舞台となった図書館を訪れる方が多かったらしく、TwitterやFacebookなどのSNSでの投稿が多くみられた。 ただ、私的にこの作品に対して残念なとこ...この感想を読む

3.53.5
  • ゆーはゆーは
  • 69view
  • 729文字

俳優陣が原作のイメージとぴったり

主演の榮倉奈々さん、俳優の岡田准一さんは読者の実写化希望のアンケートで1位となったキャスト陣、栗山千明さんは作者が柴崎のモデルとしてアニメ化の際依頼していた人物だそう。なので、俳優陣と原作のイメージがぴったりだと私は感じました。原作を読んでいない両親と自宅で鑑賞した際、「榮倉奈々の方が身長高いのね」と母が言っていましたがそこがいいんだよ!と思いました。原作と設定の違うところ、演出が違うところもありましたが全体を通して丁寧に作られていて原作のイメージを壊さないようにしていたな、と私は思いました。榮倉奈々さんと栗山千明さんが仲良く会話をしている姿は原作の笠原と柴崎のイメージそのまんま(ランチシーンも仲が良くて自然でよかったです)、榮倉奈々さんと岡田准一さんの掛け合いもキュンキュンさせられました。榮倉奈々さん演じる笠原の上官堂島に対して悔しい気持ちとどんどん膨らんでいく尊敬の気持ち、岡田准一さ...この感想を読む

4.54.5
  • じゅりごんじゅりごん
  • 78view
  • 516文字

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