思春期のための小説 - 蹴りたい背中の感想

理解が深まる小説レビューサイト

小説レビュー数 3,368件

蹴りたい背中

4.004.00
文章力
4.33
ストーリー
3.33
キャラクター
3.67
設定
4.17
演出
3.77
感想数
3
読んだ人
23

思春期のための小説

4.54.5
文章力
5.0
ストーリー
3.5
キャラクター
3.5
設定
5.0
演出
4.0

目次

いまいちだった点

  • 思春期のための、思春期時代を描いた小説であるため、数年後見返すと面白みを感じることが難しいです。
  • 主人公ヒロインである長谷川の友達である小倉という女の子がいますが、登場人物として出すのであれば、もう少しキャラを強めに出すか魅力的に描いてほしかったです。なぜならただでさえ疎遠になりつつあるという人物であるのに、出すほどの重要人物だったのか?という思いが出てくるからです。もしかしたら異色な主人公と対極にいる人物として、あえて出したかったのかもしれませんが、それならば、何故対極の二人がとっても仲良しなのかが不思議です。それを納得させるだけのエピソードは少なくともなかったように思います。
  • 一つ一つのシーンで濃厚で生々しい文章を使うのに、ほかの登場人物たちとの出会いは少し印象が薄いです。たまに本当はどこを強調したいのかな?と思うこともあります。

良かったところ

  • 思春期真っ盛りの小説であるということは先ほどでも取り上げました。だからこそ、同じ思春期を中1で迎えたばかりの私が読んだときはインパクトが大きかったです。主人公と同じくほかの子たちと馴染みづらく、異彩を放っていた私にとって、この中の少女はあまりにも同じような行動をするもう一人の自分のような存在でした。
  • 表現方法が面白いです。人と人との距離、近いのに仲間外れにされているような疎外感を、綿谷さんは「目に見えない柔らかな膜で覆われている」「こわごわと触れると柔らかなゴムのようにそっと押し返される」というような表記を使っていて、非常に面白かったです。
  • 長谷川と仲良くなる(?)蜷川という男子がいますが、この男子が自分の気持ち悪さを基本的には隠そうとしないところが面白さの秘訣かなと思っています。異色すぎて近寄ってくるものが少ないだけで、実際は寄ってきたら受け入れるという寛大さがうかがえます。

まとめのようなもの。

年数がたってしまうと、あまり「何度も読み返したい!」と思うような小説ではありませんでしたが、綿谷さんがデビューして間もないころ、親がくれたのがこの本でした。綿谷さんが私と年端も変わらぬ少女だったというのが手に取るきっかけだったようです。

思春期の人、どこか疎外感を感じている人、どこにも逃げ場がないと切羽詰まっている人、特別誰かに何かされているわけじゃないのに否定され続けているような感覚をもっている人は一度は読んだほうがよろしいかと思います。

きっと、そう思っているのは自分だけではなかった、そう思わせてくれます。

小説のラストは少しわかりづらいですし、主人公の成長という面では今一そういったところは見づらい作品ではありますが、さっくりと読める面白さや、同じことを思っていてもいざ別の観点からの言葉は斬新であり、楽しさがあると思います。

あなたも感想を書いてみませんか?
レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。
会員登録して感想を書く(無料)

他のレビュアーの感想・評価

自分の殻を破る、青春小説

19歳の綿矢りさ。小説が好きな方なら知らない人はいないでしょう。世間が湧きましたね。昨年の芥川賞である「火花」が売り上げ最多記録を余裕で抜きましたが、文藝春秋の売り上げ最多記録はこの「蹴りたい背中」と「蛇にピアス」が載った号が未だに歴代一位を獲得しています。綿矢りさ先生が19歳、金原ひとみ先生は20歳。現代小説の新しいステージが始まったと多くの大御所作家たち、または書評家の方が口にしています。それだけセンセーショナルで、歴史ある小説の世界で一つの目印をつけた作品がこの「蹴りたい背中」です。19歳とまだ大人へ踏み込む前だからこそ作ることのできた小説だと私は思います。垢にまみれず、若者だからこそ見える世界での、大人にはわからない感情、感覚、感性。全てが揃っていると思います。蹴りたい、けど、蹴る資格がない。クラスのあぶれ者である主人公は、1人でも平気よ、と髪をなびかせ、悠々と学生生活を送っていました。...この感想を読む

4.04.0
  • 紫
  • 281view
  • 2459文字
PICKUP

蹴りたくなる気持ちってなんだろう?

主人公に共感できるか?「蹴りたい背中」は、芥川賞を最年少で受賞した19歳の作家・綿矢りさの作品。若い彼女が、自分と年代の近い女子高校生を主人公とした世界観が描かれています。主人公のハツから見た現実が、細やかな描写と独自の書き方によって、心の動きや考えている事が身近に感じられ、まるですぐ側に主人公がいるような感覚になる作品です。あまり展開は無いけれど、人の心を覗き見しているように、読み進んでいくのではないでしょうか?しかし、主人公の言葉は、単なる愚痴とコンプレックスを見せつけられているだけなので、不快に感じます。何も自分では行動を起こさないのに、客観的に他人や物事を見て、批判したりいじけたりするハツの姿は、主人公にふさわしい登場人物なのかと、疑問を感じました。そんなハツに対して先輩の台詞「あんたの目、いつも鋭そうに光っているのに、本当は何も見えてないんだね」という言葉は、ハツに対して唯一ス...この感想を読む

3.53.5
  • mayurinmayurin
  • 464view
  • 2129文字

関連するタグ

蹴りたい背中を読んだ人はこんな小説も読んでいます

蹴りたい背中が好きな人におすすめの小説

ページの先頭へ