役者の魅力を含め、エキゾチックな魅力に浸る
松田優作の魅力が際立つ
1989年作品。多感な思春期の時代にリアルタイムで見て、それからこれまでになんだかんだと数回見て来ました。公開から30年を経て尚、印象に残っている一本です。
これだけの時間の精査を経ると、作品について客観的にその良さもまずさも見えて来る部分があると思うのですが、まず、この作品は、現在の感覚からするとポリティカリーコレクトな作品ではないです、全然。そういう視点でもって今見ると、日本人としてはかなり嫌な気持ちにさせられる台詞や描写は少なからずあると思います。マイケル・ダグラスを、イコールアメリカをヒロイックに描くことを高い優先順位に据えているゆえだと思うのですが、今見るとバランスの悪さを感じます。
しかし、それは取りも直さず、日本側の役者の良さが彼らを上回っているからだとも言えます。良いものは古びて感じられないものですが、個人的にこの作品のアンディ・ガルシアは好きなものの、マイケルはじめアメリカ側の役者が「今見ると賞味期限切れ」感を感じさせるのに反して、高倉健と松田優作は(出演部分は少ないですが若山富三郎も。ガッツさんもいい味だ)、今見ても全く古さを感じさせないです。作品そのものが古くさくなってくると、それが余計にはっきりと際立ってくるように思います。
私は高倉健は熱心に見て来なかったのでよく分かりませんが、松田優作に関しては、彼の全く古びない、オリジナルな佇まいを昔の作品の中で見るたびに、何はともあれ彼は本物だったのだなと思わされます。松田優作という人は、どんなにしょうもない昔の作品にあっても、ひとりだけ浮き上がって見えるくらいにオリジナルで、実にいかしてるのですね。「探偵物語」とか、つくづくすごいなあと思います。周囲のものが全部陳腐でも、ひとりだけ異次元なくらいにクールで、存在が格好良くて。
その、松田優作の他の作品に対して感じるのと同様の存在感をこの作品でも感じたし、しかもそのクールさは他作品と比べても群を抜いていると思います。存在の気迫のようなものが、悪役としての鬼気迫る魅力がすごいです。
役者が命を削りながら役を生き、映画と共に人生を終えていったという点では、クリストファー・ノーラン監督の「ダークナイト」でジョーカーを演じたヒース・レジャーを彷彿とさせます。それが良い事なのかどうかは分かりませんが、自分が見たあらゆる映画の中で、特に心に残っている魅力的な悪役にヒースのジョーカーと松田優作が演じた佐藤が挙げられるのは事実です。
松田優作の佐藤は、なんというか、とてもセクシーで、ラストの警察署に連行される時のふてぶてしい態度も含め、ぞっとするような色気があって惹き付けられます。
高倉健も魅力的
それと同時に、派手さはないのだけれど、高倉健の松本警部補も実にいいです。少しも威圧的でないしマッチョでもないのだけれど、更に年寄りでもないだけど、彼には威厳というものがあります。多くの人に愛され尊敬された健さん自身の、プロフェッショナルで肝が据わった、そして謙虚なスマートな人柄というようなものが、松本警部補というキャラクターに説得力を与えていると思います。
この作品はクライムアクション作品であると同時に、ニックの成長物語というラインも含んでいますが、しっかり地に足のついて少しも浮かれたところのない、ただ誠実に実直に自分の仕事を全うする松本のありように、ニックはそうとは意識しないまま自らを省みる事になる。松本が健さんだからこそ、そのストーリーに納得性が出て来るのだと思います。
リドリー・スコットの創りあげた異国的で暴力的な世界の魅力
しかしこの作品の魅力は、何といってもリドリー・スコットのつくりあげたその独特なムードがベースにあってこそなのだと思います。
当たり前のことですが、もしこの作品が「こんなの本物の日本じゃない」と言われたとしたら、その批判は的外れなものであると言わざるを得ないでしょう。写真でもコマーシャルでも、外国人が日本を撮ると日本人が撮ったのとは面白いくらい全然違って見えるものでそれが興味深いものですが、リドリー・スコットは「ブレードランナー」の監督ですから、それ以上に彼だけのオリジナルな世界観の構築があり、この作品で描かれた「大阪」のどこにもないエキゾチックさ、熱っぽく、あるいは冷え冷えとしたむき出しさ、胸がどきどきするような躍動感は実にドラマチックで素晴らしいものだと思います。時代と共に、随所に陳腐だったり面白く感じられてしまう部分はあるにせよ、その映像のもつ「熱」のようなものは色褪せることなく今も新鮮です。
1998年に金城武が主演した、新宿歌舞伎町を舞台とした「不夜城」という作品があり、これも空気感が非常に魅力的な作品でしたが、この異国的で暴力的な空気感は「ブラック・レイン」にインスパイアされたものかなと感じました。
荒削りだったり、適当に「やっちゃった」部分が色々ありながらも、映画全体としての体温が高く、魅力的なエッセンスが随所に散りばめられていて、すぐれてオリジナルである。そういう作品だなという印象です。
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