『ブラック・レイン』から学ぶ、アメリカ人から見た日本のイメージ - ブラック・レインの感想

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『ブラック・レイン』から学ぶ、アメリカ人から見た日本のイメージ

4.54.5
映像
4.5
脚本
4.0
キャスト
5.0
音楽
4.5
演出
4.5

目次

ロケーションは、約30年前の大阪で行われた

1989年(平成元年)の映画。
ニック刑事(マイケル・ダグラス)の相棒チャーリー刑事(アンディ・ガルシア)が、佐藤(松田優作)達に殺される前の場面を、大阪の阪急梅田駅コンコースでロケしています。
地元なので、「おー、真夜中にあそこで撮ったのか」と感心しました。

紀伊國屋書店から出たところです。
今はもうない風景に、郷愁をそそられます。

深夜にポリシャーをかけて、掃除していたおっちゃん達が映っていましたが、あれは本物の清掃員を撮ったのでは。

阪急梅田駅ターミナルビル1階コンコースの風景は、改装されて、まったく変わってしまいました。
映画内に出てきますが、あそこには、高い天井にシャンデリアがあって、ステンドグラスの絵柄窓があり、西洋風の装飾柱が立っていました。
何故、あれを改装したのか未だによくわかりません。
もったいないことです。

アメリカ人から見た、日本人のイメージがわかる

30年も前の映画なのに、アメリカ人視点の日本人のイメージがほとんど変わっていないことに驚かされます。

いや、『ブラック・レイン』公開当時より現在のほうが劣化しているかもしれません。

昨日たまたま、地上波放送の『ウルヴァリン:SAMURAI』(2013年公開)を観てしみじみと感じました。
『X-メン』シリーズのスピンオフ作品らしいのですが、笑ってしまいます。
日本ロケをする必要性がまったく無い。
真田広之が悪役をする必要もありません。日本人俳優の無駄使いです。
忍者が出るのはまだ許せるのですが、西洋風の弓を使うのは我慢できませんでした。

ところが、『ブラック・レイン』では、多少おかしい点(刺殺される用心棒の「親分ガ、黙ッチャイネーゾ」片言の日本語など)もありましたが、日本人の本質を突いた描写をしていました。

ケイト・キャプショーが、日本に7年住む外人ホステス役をしていました。彼女が的を射たセリフを言います。
「7年暮らしてまだ戸惑うことばかり」
「“イエス”は“ノー”で、“多分”は“ダメ”て事」
「ガイジンには無理なのよ」
など。

日本人ならば「“イエス”は“ノー”」の意味を無意識に理解しているはずです。
お土産を「つまらないものですが」と渡すこと、面接官や仕事相手に「未熟者ですがよろしくお願いします」などと言ったことのない日本人は、99%いないでしょう。
アメリカ人相手にこんなことを言うと、怒られるか、なめられるかどちらからしい。

May Jへのバッシング騒動を思い出す

歌手のMay Jさんのことを、気の毒に思い出しました。
ネット上では「他人のふんどしおばさん」、「カバーソング芸人」とかボロクソに言われています。
彼女が日本人受けしないのは、美人な上に自信たっぷりに見えること。そして歌が上手なことを謙遜しないことにあるのです。
本当のことを言っては駄目なのが、日本文化だから。

日本の女優さんならどんなに美人でも、「お綺麗ですね」と言われたら、「いいえ、そんなことありません」といった意思表示をします。
それをしなければ、美人なのを鼻にかけた傲慢な女扱いされるからです。

「“イエス”は“ノー”」ならば、“ノー”は“イエス”でもあるのです。
日本人なら無意識に理解している行動様式であるので、頭では理解できても心情として受けとめられない。

マイケル・ダグラスもアンディ・ガルシアも、明らかに添え物

『ブラック・レイン』に話を戻します。
松田優作の鬼気迫る演技は、何回観ても飽きません。明らかに狂気を宿しながら、他者を殺すことも、自らの死をも恐れない悪役ぶり。
リドリー・スコット監督もそのことがわかっていたようで、全体から見るとマイケル・ダグラスもアンディ・ガルシアも脇役のようです。

故人である若山富三郎が演じた、ヤクザの親分の気迫と存在感も凄まじい。
対等に交渉しようとするニック刑事(マイケル・ダグラス)に、それまで英語で話していた親分が、怒りの形相になり、日本語で「殺したろか、このガキゃ」とすごむシーンは何とも言えない爽快さがあります。
「親分、格好良いー!」です。

未だに嫁から怒られる映画

嫁を結婚前のデートで、この映画に誘いました。
「“黒い雨”、観に行こうか」とだけ言ったのです。半分冗談で。
「え?あの『黒い雨』?ええよ」
嫁は、井伏鱒二原作の原爆をテーマにした映画と思い込んでいました。

普通ならば、映画館前のパネルを見れば気がつきそうなものなのだけれど、天然なので映画が始まってからも、しばらく首をひねっていたそうです。

「何時になったら原爆が落ちるのか」と。

映画が終わった後、「松田優作が良かったね」と声をかけると、前を歩いていた嫁が、「ふー」とため息をついて、「あん?」と振り向きました。
そして「あんた騙したね、黒い雨とちゃう。ブラックレインやん!」と松田優作演じた佐藤の様に凄まれたのが、昨日のことのようです。

ぶつぶつ文句も言っていました。アメリカからの旅客機が、伊丹空港(大阪国際空港)への着陸時の映像に、煙突からモクモクと煙を出す工業地帯が写っていたのです。

「大阪はあんなに汚くない。公害の国みたいなイメージ操作やん」と。大阪出身者から見るとそんなツッコミどころもあったようです。

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他のレビュアーの感想・評価

役者の魅力を含め、エキゾチックな魅力に浸る

松田優作の魅力が際立つ1989年作品。多感な思春期の時代にリアルタイムで見て、それからこれまでになんだかんだと数回見て来ました。公開から30年を経て尚、印象に残っている一本です。これだけの時間の精査を経ると、作品について客観的にその良さもまずさも見えて来る部分があると思うのですが、まず、この作品は、現在の感覚からするとポリティカリーコレクトな作品ではないです、全然。そういう視点でもって今見ると、日本人としてはかなり嫌な気持ちにさせられる台詞や描写は少なからずあると思います。マイケル・ダグラスを、イコールアメリカをヒロイックに描くことを高い優先順位に据えているゆえだと思うのですが、今見るとバランスの悪さを感じます。しかし、それは取りも直さず、日本側の役者の良さが彼らを上回っているからだとも言えます。良いものは古びて感じられないものですが、個人的にこの作品のアンディ・ガルシアは好きなものの、マイ...この感想を読む

4.14.1
  • kafuluikafului
  • 145view
  • 2096文字
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キャスティングが豪華すぎて全てのシーンが見逃せない!今は亡き、松田優作、高倉健をはじめ、脇役にも有名な俳優がもりだくさん出演しており、本当にどのシーンも楽しめます。私はこの映画が一番好きで、何度も何度も見直していますが、本当に何度見てもおもしろい!特に松田優作の表情。この作品は、松田優作最後の作品です。病気を患いながらも過酷な撮影をしたということはとても有名な話。激痛と戦いながら、雨の泥だらけの中をバイクで走りまわるシーンは何度見ても圧巻です。狂ったようなヤクザ佐藤役の演技がすさまじいです。なにせ目つきが凄い。一番最初の、佐藤をアメリカから日本へ護送し、警察を装った佐藤の手下に引き渡すシーン。佐藤がニックとチャーリーに対して挑発的な態度をとる表情もとてもかっこよいです。佐藤がバイクを乗り走りまわるシーンがあるのですが、それもすべてスタントマンなどではなく、松田優作本人が乗って撮影してい...この感想を読む

5.05.0
  • aiko1000aiko1000
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  • 2060文字

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