吉田修一らしからぬ“アンパイ”な恋愛小説(本作にぴったりの一曲を添えてみた)
定番的に面白いけれど、“アンパイ”な恋愛小説
“雨に濡れた窓ガラス越しの夕暮れ写真”という装丁、タイトルの『7月24日通り』、そして吉田修一と三拍子揃えば、ロマンティックな恋愛小説を想像してしまう。現実的で、ちょっぴり泣ける、そんな恋愛小説。
だけど、アンパイだったなあというのが、読後の感想だった。
可もなく、不可もなく。定番的に面白くはあるけれど、それ以上でもなく。長編小説にはめずらしい目次も、ポルトガルを散りばめた伏線も、手が込んでいるけれど、残念ながら、新鮮味に欠ける恋愛小説といった出来具合。
吉田修一と言えば、読みやすく、微妙な線で理に落ちるストーリーを描き、人物を冷静に鋭く描写する点で、個人的に大好きな作家さんなのだけど、今回はよくできている、それだけと言った感じだった。
手の込み具合がやり過ぎ!?
本作品は、タイトルを始め、ポルトガルの地名がたくさん出てくる。
何の情報もなく読み始めると、ポルトガルが舞台なのかと思えてくるが、実際の舞台は日本の地方都市(おそらく長崎)だ。
丸山神社をジョロニモス修道院に、岸壁沿いの県道を7月24日通り、水辺の公園をコメルシオ広場などと、主人公本田サユリが物語中で設定しているのだ。
サユリの住む地方都市が、ポルトガルのリスボンの地形と合わせてみたら、偶然、どこか似ているということを発見したサユリ。それまで見向きもしなかった街の風景に、異国情緒が漂ってきて、目に楽しく映るようになったとのこと。
どうしてポルトガルなのか、何かしらオチがあってのリスボンなのかと読み進めていったが、結論から言うと、オチになるような意味はなかったように思う。
作者である吉田修一が長崎県出身だったこと。
長崎とポルトガルの歴史は関係が深く、実際に(私はリスボンと長崎の地形が似ているか見比べたことはないが)地形もよく似ていることからの設定だったようだ。
最終的に、サユリは自分の街が“きれい”だったことに気づく(カタルシス)。
無意識に本来の地名で呼んでいたことから、ポルトガルへの地名変更は、地味で平凡な生活を送る本田サユリの、現実逃避だと読み解いた。
先にも述べたけれど、長編小説ではめずらしく、本作には目次があり、10の章に分けられている。
しかもそれらタイトルは、誰かの話し言葉をかき集めたような、まるで少女マンガ的な言葉が連なる。
最終章で、これらのタイトルは、冴えないめぐみの告白した自己分析10個であり、サユリ自身とそっくりだったというオチになるのだけれど、エンターテインメント的には面白く、最終章ですべてが腑に落ちる点は、読んでいて気持ちが良かった。
しかし個人的には、ポルトガルも目次も、手の込み具合がやり過ぎだったかなあというのが本作への感想です。
両刀使いの作家吉田修一
知っている人も多いと思うが、作家吉田修一は、2002年に山本周五郎賞(大衆文学)と芥川賞(純文学)を合わせて受賞している。
おおよその作家は、純文学か大衆文学かどちらかに傾倒していることが多いため、異例の受賞となったことで、話題にもなった作家さんだ。
吉田修一のインタビューで拝読したことがあるのだが、作者曰く、「自分の作品は、純文学でも大衆文学でも、どちらという枠組みでは言い表せない」と言っていた。
本作『7月24日通り』も例によって、どちらかに区別できる作品には仕上がっていないと思う。大衆文学にしては出来すぎていて、純文学にしては手が込んでいる。言うならば、両刀使いといったところ。
蛇足、両刀使いといえば、吉田修一でネット検索すると、“同性愛者”や“オカマ”といったバイセクシャル的な単語が並ぶ。
吉田修一のデビュー作『最後の息子』はオカマの閻魔(えんま)ちゃんを題材にした作品だし、他にもオカマ的な作品が多いので、おそらくネットではそんな単語がヒットするのだと思うけれど、実際本人が両刀使い、否、同性愛者かどうかは、わからない。
しかし、そういった先入観でもって本作を読み始めた私は、本作が一人称“私”で書かれていたので、またそっち系かと思ってしまった。が、本作は、れっきとした男女の恋愛小説だ。
小説よりも映画の方が面白い
本作は『7月24日通りのクリスマス』というタイトルで、2006年に映画化されている。
主人公本田サユリには、中谷美紀・・・これはちょっと原作より綺麗すぎる。
相手役奥田先輩を大沢たかお・・・まさに想像どおりの配役だと思う。
映画では、原作にはなかった設定として、「クリスマスまであと1ヶ月、この恋愛は成就するのか」がテーマになっているが、小説で読むより、映画の方がキュンキュンきて面白そうな気がする。
小説では、地方都市をポルトガルにしたメリットがあまり出ていなかったけれど、映画では実際にポルトガルで撮影しているため、景色の美しさも堪能できると思う。
本作にぴったりの一曲を添えてみた
『7月24日通り』は、男性作家が女を主人公として書かれている小説。しかも恋愛モノ。
芥川賞作家に物申して申し訳ないが、男性視点での恋愛に、どこか垢抜けなさを感じた。とくべつお洒落でもないし、新鮮味もない。雰囲気的に90年代っぽくて(←私の年齢がバレる笑)、そんな本作に添える音楽は、大黒摩季の『ら・ら・ら』。まさに“懐かしい匂いがした”小説。
主人公本田サユリが悩んでいるのは、恋愛だけじゃなく、年齢だったり、結婚だったり、家族や将来だったり、そんなアラサーの悩み事も、歌詞と合う。
よくできている小説なのだけれど、新鮮味に欠ける点も含めて、ら・ら・ら、だ。
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