平成猿蟹合戦図の評価
平成猿蟹合戦図の感想
若者の若者らしさが生き生きと感じられるドラマ
途方に暮れている女性の意外な素顔まるで香港映画のような狭い路地にある雑居ビルの階段にうずくまる美月の途方に暮れたような描写から物語は始まる。しかもその胸には赤ちゃんまで抱かれており、いかにも非常事態を感じさせる。またその描写からはむっとした熱気を感じる上、美月が座っている階段には室外機がありそこから熱風が吹き出してくるというつらさだ。その熱風が赤ちゃんに当たらないように姿勢を変えながらどうしたらよいのかわからないようなその様子は、読み手を十分ハラハラさせる。だけど読んでいくと分かるのだけど、この美月という女性、どういう事態になってもそれほど深刻にならない。楽観的というか物事をあまり深く考えないタイプなのか、この時もディズニーランドのことを考えていたりする。こんな美月が初めはなんだかイライラするのだけど、読むにつれだんだん彼女に好感がもててしまうから不思議だ。そんなところに座り込んでいる...この感想を読む
勧善懲悪?
吉田修一作品の中では珍しく、すべてが丸くおさまってめでたしめでたし、みたいな物語だった。なんだか却って不思議な感じというか。「平成猿蟹合戦図」っていうのは、具体的に猿が誰で、蟹が誰で、みたいなのはよく分からなかった。そういうふうに捉えるものじゃなくて、ただ善いものが栄え悪いものが滅びる? みたいなことでいいんだろうか。純平くんが、とっても魅力的なキャラクターとして描かれていて好印象。彼みたいな人柄を文章で表現するってなかなか難しいのでは? って思った。こういうお話もお書きになられるんだなぁと思うと、吉田修一さんの作風の幅の広さが窺い知れる。