大き過ぎる真実 - Q&Aの感想

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Q&A

4.674.67
文章力
4.00
ストーリー
4.33
キャラクター
3.67
設定
5.00
演出
5.00
感想数
3
読んだ人
19

大き過ぎる真実

5.05.0
文章力
3.0
ストーリー
5.0
キャラクター
3.0
設定
5.0
演出
5.0

目次

真実はもしかしたら1つではないのかもしれない。

芥川龍之介「藪の中」を連想させるような、奇抜でいて王道な小説。

解決のない物語。


恩田陸『Q&A』は、前編を通して誰かの語りで進んでいく物語。

その進行の形から私がまず一番に連想したのは、芥川龍之介の『藪の中』でした。真相がわからないことを「全ては藪の中」などと表現しますが、その語源ともなった小説です。

そのため、今でも「犯人探し」がされている謎多き魅力的な小説であるわけですが、『Q&A』もまさしくそれに通じる魅力たっぷりな恩田ワールドに溢れていました。

『藪の中』では最終的に誰の言葉が真実なのかわからないまま終わりますが、『Q&A』も最後まで何が真実なのかはっきりと明示はされていないので、推測するしかありません。そのためのヒントも本のあちこちから拾い上げてこなければならないので、まるで宝探しみたいなワクワク感もありますね。それがまた楽しい(´∀`)

物語はあるショッピングモールで起きた大規模な事故から始まります。この事故は最終的に死者69名、負傷者116名を出す大惨事になってしまったというのに、その原因がわからないのです。物語は、この原因救命を主な軸として進みます。

事故のことを調査しているらしい調査員や、事故現場に居合わせた被害者、救助活動を行った消防士、現場の近くにいた脚本家、事故に好奇心をもった大学生など様々な人間から事故のことが語られますが、それはどれも似ているようで異なっていて、読めば読むほど混乱します。

物語の序盤は、主に事故現場に居合わせた被害者たちの語りが中心です。

この辺りで、大事故の直前、複数の「異分子」があったことがわかります。ショッピングセンターの違うフロアで同時刻、同時に、ナイフ(と思われるもの)を取り出した老夫婦や不審な液体をばらまく男が現れます。これらを目撃した他の客は当然、逃げ出します。

これに関しては複数の人物がはっきりと証言しているため、おそらく真実だと考えられます。

しかしそれを目撃した人物は、それぞれの立場や感情から様々な思考が働きます。ある不倫をしていた主婦はその罪悪感を老夫婦に刺激され恐怖を感じ、ある少女は習い事のコーチにされた痴漢行為がトラウマとなり、騒ぎが起きた時に嗅いだ匂いがそのコーチのものと似ていたことから具合が悪くなります。さらに具合の悪くなった女の子を目撃した他の客が、液体が有毒なものだと思い込む……。

この連鎖が結果的に大きなパニックを引き起こし、悲惨な大事故に繋がった……という考えがここで成り立ちます。その証拠に、弁護士の証言の中に例え話として、「学校の人気者である少女が具合を悪くした結果、彼女に常に注目している子供達も具合が悪くなった」という医学ノンフィクションを読んだという話をしています。

これが作者の提示したヒントだと考えるなら、上記の……仮に「パニック連鎖説」とします。これが真実であると考えることもできると思うのです。

ただ、そう思うと今度は、パニックを起こすきっかけとなった「異分子」は何だったのだ? という疑問が残ります。

すると、物語の終盤で、「おや?」と思う証言が出てきました。

タクシー運転手とその客の会話なのですが、どうもこのタクシー運転手が、物語序盤で登場した聞き取り調査員の男性らしいとわかります。この男性は既に調査員をやめていますが、タクシーに乗り合わせた客に「あの事故は人口密集地でパニックが怒ったらどうなるか」という政府による実験だったのだと話します。つまり、あれは「事故」ではなく、「実験」。

作中では、「政府陰謀説」という言葉を使っていましたが、実はこの単語、序盤から結構あちこちで散見していました。これまではいわゆる都市伝説のような噂程度くらいの触れ方でしたが、ここでははっきりと明言している。

しかもこの元調査員の男性は、後に殺害されます。その犯人は……乗り合わせていたタクシーの客と思われます。

すると、既に述べたナイフの老夫婦や液体をまいた男が、政府の手によるものではないかと考えられ、辻褄があってきます。

しかし、ここでまた疑問が生まれる描写があります。それは、この調査員がどうやら精神を病んでいたらしいとも読み取れる描写があるのです。

そこを考えると、「政府陰謀説」は元調査員の妄想であり、それを吹聴したために、政府関係者が探していた……という解釈も成り立つのではないか……。

そうなるとこの「政府陰謀説」も絶対に正解とは言い切れません。

また、さらに物語が進むと、事故の生き残りである少女が被害者を中心に作られた宗教団体の教祖にまつりあげられています。この少女は、「未来の自分の幽霊」と話します。

この章を読んで私はまた『藪の中』を思い出しました。『藪の中』は最後、殺された男の死霊が巫女の口を借りて語りますが、まさにそれを連想するのです。

『藪の中』では、様々な人物が嘘か本当かわからない話をします。しかしあれは、私は実は全て真実だったのではないかと思います。ただ、「真実」というのはそれを見る「目」によって見えるものが違ってしまう。

『Q&A』も同じなのではないか? と思うのです。

登場人物たちの語ることは全て「真実」。しかし、それを見る「目」を持つ人々は、生活環境やトラウマなどから引き起こされる感情によって、「真実」を上から見たり下から見たり、あるいは一部しか見なかったり、あるいは形を変えて見てしまったりするのです。

嘘ならどこかでボロが出ます。

しかし全員「真実」を語っているからこそ、「真実」に行き着かないのです。

作中に、大きな犬が虫かごに入っていた虫をかごごとぺちゃんこ踏み潰してしまったというエピソードがあります。しかし犬は、踏んだことなんか気がつかず、散歩を続けると……。

このエピソードを逆に考えると、小さい虫は大きな犬を見ることもできず、それどころか自分が踏み潰されたことすら気がつかずにぺちゃんこになったとも取れます。

大き過ぎるものは小さいものは目に入らない。同じように、小さいものは大き過ぎるものが目に入らない。

「真実」は大き過ぎて、人間1人の目にはとても写りきらないものなのかもしれません。



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読み始めた瞬間のわくわく感は随一!

単行本版の帯のイラストが何とも衝撃的な1冊です。とある大きなショッピングセンターで謎の災害が起き、逃げ惑う人々が将棋倒しにあったり転んだりして命を落とし多くの人がけがをします。なのに、ショッピングセンター内では何も起きていなかった。いったいなぜ人々は逃げ惑い死ななければならなかったのか?を、タイトルの通り「Q&A」方式で関係者へ質問をしていく物語です。この独特な表現方法に多くの人がわくわくしてページを開いたことだと思います。関係者の中には実際にけがをした当事者から、被害者の家族、人々を救出するために活動したレスキュー隊員など様々な人がおり、それぞれの視点から事件のことが語られます。その中で、一見関係ないような個人の問題や悩みが表出し、物語に深みを与えています。このままQ&Aを続ける中で事件の真相が明らかになるのか?と思いきや、思わぬ方向に話が飛んでいくのは、恩田陸さんならではかもしれま...この感想を読む

4.04.0
  • おみおみおみおみ
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