東京島のあらすじ・作品解説
人間の心をあらゆる切り口で描く偉才、桐野夏生が2008年に発表した作品が「東京島」である。 マリアナ諸島アナタハンと言う島での史実が踏襲されており、遭難し無人島に流れ着いた30数人の男と、クルーザーでの新婚旅行中遭難してしまう清子と隆。たった一人の中年女性をめぐりまさに非常識、非日常、非人道的な日常が繰り広げられていく。 もしも論で良く語られる無人島での空想が、ここまで現実的に描かれていることもさることながら、何もない文明から断絶された中、女性がただ一人というシチュエーションにより現れ、変化していく心情、情動が一番の読みどころだろう。 奇行な言動を繰り返す「ワタナベ」、記憶を失いその後全てを思い出してしまう「森軍司」(GM)など異常な島暮らしに翻弄されていくキャラクターも豊かだ。 2010年には映画化もされ、そのキャストも素晴らしくイメージを裏切らない作品になっており、原作をより幅広く楽しませてくれることだろう。
東京島の評価
東京島の感想
良くも悪くも軽い小説
全く好きになれない主人公この小説はある無人島に辿り着いた人々の生活を描いているのだが、その漂流者の中でただ一人の女性が主人公となっている。もちろんこのモデルはアナタハン島事件と思われるが、グロテスクながらも興味深いこの事件に比べこの小説は実にあっさりと描かれているように感じる。主人公の清子と夫の隆は漂着してから既に5年経過している。島にいるのは、その間与那国島からバイト辛さに脱出してきた若者23人、中国人マフィアかなにかに島に捨てられた中国人11人。事故や発狂で人は減ったりしながら、その後、フィリピンのダンサーたち7人が流れ着いてくるのだけど、その全ての登場人物がまったく好きになれなかった。これは面白くないと感じる小説や映画でよくあることで、登場人物たちが好きになれないとまず話にのめりこむことができないし、ストーリー自体に魅力を感じることができない。後半にフィリピンダンサーたちが流れつ...この感想を読む
無人島を舞台にしたストーリー
映画が上映されると知って興味を持ち、桐野夏生さんだったらハズレはないだろうと思い購入しました。読了後の率直な感想としては、無難にまとまっていてスイスイ読むことができる、が物足りなさも少々残るという感じです。この感想は、無人島を舞台にしており、多くの男性の中で女性が一人という物語設定から、私がエロスの要素を期待しすぎたという面もあると思います。多少のエロチックな要素はありますが、それだけを期待するなら評価は辛くなるかもしれません。映画の主人公である木村多英さんとは違い、小説の主人公は太目のおばさんであることも理解しておいて下さい。個人的には物足りなさが多少ありましたが、さすがに桐野夏生さんの作品だけあって水準以上のレベルは保証します。
凄まじい
無人島に漂流した夫婦と、そこにいた若者達。女性は清子一人だけ。 なんだかすごい設定で映画にもなっていたので読んでみました。前半は、無人島に閉じ込められるという異常な状況のなかで、普通の主婦だった清子が生きていくためにどんどんたくましく、あさましくなっていく姿が生々しく描かれており、とても読みごたえがあります。でも、人間の醜悪な部分が多く、読んでいて気持ち悪いと感じる描写があり読むのがけっこう疲れます。そして、後半は話をまとめるためか展開が速く、すこし不完全燃焼というかスッキリしない結末だったと思います。 映画では面白いのかな?機会があれば観てみたいです。