関西弁の文章に圧倒されっぱなしでした。 - 乳と卵の感想

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乳と卵

4.254.25
文章力
3.75
ストーリー
3.88
キャラクター
4.13
設定
3.88
演出
3.75
感想数
4
読んだ人
4

関西弁の文章に圧倒されっぱなしでした。

4.54.5
文章力
4.0
ストーリー
4.0
キャラクター
4.5
設定
4.0
演出
4.0

目次

川上未映子先生は多彩。

歌手活動もされている多彩な川上先生。この作品も結構ニュースで取り上げられ、話題になったように思います。それはどうしてだったか忘れてしまったのですが、読んでその独創性に驚きました。会話以外も会話のように書かれ、そしてふんだんに関西弁を多用しているからです。はっきり言いますと、標準語ではない文章に嫌悪感が生まれ、この作品も読み始めた手前途中で止めるということが嫌な私の頑固さが祟って、最後まで読むことになったのですが、今では自分の性格を褒めてあげたい気分です。よくぞ最後まで読んだ、と拍手を贈りたいです。

なぜなら、真新しい刺激を受けることになったからです。彼女の文章は、まるで音楽を聴いているような軽快なテンポで読み進めることができ、関西弁なのですが、すらすらと物語に入り込めて関西弁であることを忘れさせてくれる、川上先生と直接会話をしているような錯覚にさせてくれます。これは他のどの作家さんにもない味で、今までにない表現方法だと思います。書くことの自由さがここまで作品に色をつけるのかと、本当に驚きました。私の中にあった小説という概念を見事に打ち砕いてくれた、そんな作家さんです。

豊胸したい母親と初潮を迎えるその娘

母子家庭の話です。主人公の姉はホステスをしていて、何を思ったか豊胸手術をしたいと言っていて、その姉の娘が初潮を迎える年頃になり、女になること、また女であることに嫌悪感を抱く、という内容なのですが、本当に女性ならではの設定だなと思いました。しかし、設定は思いつく範囲内でも、その表現方法が巧みで、小技が効いていて面白い。

娘は一過性のストレスかわかりませんが、声が出ない、話せません。彼女は筆談や日記で自分の不満や不安を吐き出しています。その日記を彼女は記録と呼んでいます。そしてその記録を主人公は盗み見るのですが、親娘の問題に口を出していいものか、様子を見て見守ります。

母親はそんな娘の気持ちに気がつかず、豊胸手術に異様な情熱を燃やしています。もし自分の母親が豊胸手術をしたいなんて言ったら、私は母親のことも自分の体も汚いもののように認識を改めるでしょう。女性であることに変わりはないのに、目的も希薄な豊胸手術に賛成できるわけありません。そして娘が多感な時期にそれを大っぴらに包み隠さず宣言する母親の神経を疑います。ものすごい悪口を書いているようですが、私は事情があって自分の体にメスを入れるのは仕方がないとして、必要性がないものを強く求めることにどうしても抵抗があるのです。読んでいてこの母親を引っ叩きたくなりました。私は完全に娘の味方として読みました。

生活のために母親は自分を犠牲にしている姿を包み隠さず娘に見せているのだなと思いました。働くために娘との時間を捨て、娘の気持ちから目を背け、誤魔化してなんとか立っているような状態。それでも、娘がしゃべれなくなっている状態を放っておいて、挙句豊胸手術をするなんて、娘にしてみれば自分のせいでこうなった、と思わせるのには十分な要素だと思います。

身を粉にして働くのは結構。でも、母親である責任は放棄してはいけないと思います。なんて、他人事だから言える綺麗事、偽善のようで自分でもその正当さに少し笑ってしまいます。が、娘が母親を心配する気持ちまで見ないようにするラストのシーンでは、母親の幼さを心底軽蔑しました。きちんと向き合おうとした娘の気持ちを踏みにじるようなことをしてはいけない、どうして正面から我が子を捉えようとせずに豊胸手術なんて馬鹿げたことを言い続けるのか。生卵をぺしゃりと自分の頭にぶつける娘の姿が痛々しくて、その必死さに涙が出ました。

大人になりたくない、けど、大人になってお母さんに楽させたい、でも大人になることが怖い。

自分の子どもが私を見てそう思うなら、寂しい思いをさせたと強く抱き寄せるでしょう。触れ合うことをするでしょう。恥ずかしいとか照れくさいとか、そういうものも思わないくらい強く我が子を感じると思います。この作品の母親には、そういう思いをまた持てるように、母親であることを再度自覚してほしいと願います。

母子家庭の現状

今ではそう珍しくないですが、私は幸い両親も健在で主人もいて、ごく普通の家庭を築いています。母子家庭で仕事に育児にと奮闘するお母さんたちの苦労も努力も想像はできても、きっと全てを理解することはかないません。なぜなら私は母子家庭ではないからです。子どもの寂しさもわかりません。きっと今後もそんな覚悟もできないまま、暮らしていくんだろうと思います。

仮面夫婦で子どもの成長に悪影響な家庭より母子家庭を選ぶという現状もありますが、この作品のようにお互い素直になれないまま時間だけが過ぎ、大きく衝突する親娘は少なくないでしょう。これほど深刻ではないですが、私も自分の母親ときちんと向き合い相手を認め合うことができるようになったのは最近のことです。やはり、溜め込まずになんでも言い合える環境が何処でも必要だなと。相手を思って言わない、ということは、親娘には必要ないのではないかなと考えさせられました。違う人間同士、思うことは違います。それは当然のことなのですが、親娘になるとどうしても鈍感になります。自分の気持ちと同じだろうと思い込んでしまいます。むしろ、そう思いたかったのだろうと今では思いますが。

反抗期に突入するだろう年頃にこうして母親とぶつかり合えたことは、娘にとってはいい機会だったと思います。今後、親娘が少しでもお互いを素直に思いやれる関係が築けるように、思わず祈りたくなる作品でした。

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他のレビュアーの感想・評価

母との関係について悩んだら読む本です。

母と娘は分かり合えないのか。親と子の関係って、どうして こう 複雑に感じるのかな。親と子ではなくて、母と娘の関係が、複雑なのかな。わたしは娘で、もしわたしに兄がいて、そしたら 母と兄の関係 も、複雑なのかな。わたしは娘だから、そんなの一生 わかりっこないんだけれど、母は 女で、わたしも、女。巻子と緑子、母と娘この本は、母である巻子 その娘の緑子が 、言わずもがな母と娘である。わたしは、母と 相容れないような気がしていて緑子に自分を重ねた。わたしと母の関係を変える「何か」が見つかるかもしれないと思い、この本を読むことにした。母は母で 、わたしと うまくいってるとは、思っていないと思う。緑子の頭と心の言葉を引用する。「パソコンも好きにみれるし、それに学校はしんどい。あほらしい。いろんなことが。あほらしいとこんなふうに書くことがあほらしいけど、学校のことは別に勝手に過ぎていくことやからいいけど、家のこと...この感想を読む

5.05.0
  • りんごりんご
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  • 2016文字
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