人間というのは、眩しい時と笑う時に、似た表情になるんだな
死神
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死神の精度は2005年6月に発売された伊坂幸太郎による小説である。第57回日本推理作家協会賞短編部門受賞や、第134回直木三十五賞候補、2006年本屋大賞第3位になるなど高い評価を受けている。6編からなる短篇集で、2013年7月には続編となる『死神の浮力』が発売された。 死神は人間の世界に派遣され、一週間の調査ののち対象者に生死の判断を下し、「可」となった場合には8日目には対象者は死亡する。生死の判定は死神の裁量に任されているが、「見送り」となることはほとんど無い。 2006年にはNHKーFMの青春アドベンチャーでラジオドラマ化される。2008年には金城武主演で映画化され、金城武にとっては6年ぶりの日本映画出演となった。2009年には「7Days Judgement」と「Live,Love,Drive」というタイトルで2度舞台化された。「7Days Judgement」は「死神と藤田」、「Live,Love,Drive」では「死神対老女」「恋愛で死神」「旅路を死神」を取り上げている。
”死神”が主人公の連作短編集。彼自身が人間を殺すようなことをするわけではなく、選ばれた人間が死ぬにふさわしいかどうか、「可」か「見送り」かどうかを決めるだけ。6つ収録されているお話の中で、「恋愛で死神」が一番せつない。ひどく悲しいし哀しい。それが最後の話にもつながっていて、でも明かされないままのこともあって。読後感が絶妙だな、と思う。この胸に残る感情を、どう表現したらいいのか分からない。「一番最悪なのは」「死なないこと」「長生きすればするほど、周りが死んでいくんだよね。当たり前のことだけど」という一連の台詞が実に重みがあって、人が死ぬということの重たさが染みた。
死神というと人の死を操って命を奪っていく、というイメージでしたがこの本を読んでイメージが変わりました。死神は、名前は都市の地名、姿はターゲットごとに変えられ素手で人間に触れてしまうと寿命を1年縮ませる、そしてミュージックをこよなく愛する。人間ではないけれど、なんとなく怖いイメージではないですね。死神の仕事も命を直接奪うのではなくて、死ぬ予定の人の生活を観察して死ぬのを「可」とするか「見送り」とするかの判定する、という設定が面白かったです。本人には死ぬことを知らされていないので動作や行動の1つ1つが生きているものとして際立つ感じがします。何人の人が「可」となり「見送り」となったのでしょうか。読んで損はしません。
生死をテーマに掲げた作品は、小説でも映画でもドラマでも舞台でもこれまでにたくさん作られてきたかと思います。そんな中、わたしは「死神の精度」がある意味一番生死の境を鮮やかに描いた作品なのではないかなと思います。 死神の好きなものが人間界の文化だったり、本人はいたってマジメそうでも不思議な会話のキャッチボールが行われたり、どことなくずれた雰囲気が素敵でした。 人の生死を見極めるという立場ながら、ヒトのようにものを考えたり行動したりする姿は、これまで自分にあった『死神』という存在の概念を変えてくれました。ただ怖いだけに描かれていないところがすごく良かったです。
死神
老女が太陽がまぶしいと目じりにしわを寄せたのを見て、死神は彼女が笑ったのだと思った。