黒い福音の評価
黒い福音の感想
巧みな手法を駆使した倒叙ミステリの傑作 「黒い福音」
物資が窮乏している、戦後の日本。バジリオ会に所属するグリエルモ協会は、日本への救援物資の横流しで莫大な利益を上げ、教会の勢力を拡大していた。指揮をしているのは、バジリオ会の日本管区長フェルディナン・マルタン神父。それにグリエルモ協会の主任司祭ルネ・ビリエ神父や、元は敬虔な信者だったが、今はビリエ神父と愛人関係にある江原ヤス子など、多数の人々が関わった大掛かりな犯罪であった。闇ブローカーの裏切りにより、警察の摘発を受けそうになったこともあったが、日本人信者を犠牲にして切り抜けた。しかしこの件で教会は、ある男と、深い関係を持つことになる。表面上は、順調に発展しながら、それから七年の月日が流れた。新しくバジリオ教会の神父になったトルベックは、信者の女性とのアバンチュールを楽しむ日々を送っていた。ある日、信者の生田世津子と出会ってトルベックは、激しい求愛感情を覚える。その一方で、教会の会計係に...この感想を読む
戦後の混乱からの強いメッセージ
戦後2年ほどの日本の混乱の中で、米国人牧師を有力被疑者とするキャビンアテンダント女性の殺人事件が発生。女性がミニスカートをはいて、男性から自立して働くことにも賛否両論あった時代でしたし、また、GHQの統治がいまだ尾を引く日本の中で、世間の価値観や法治国家としての日本の歩みが、大きく揺れ動き変わっていくという社会背景の中、松本清張が得意とする時間のトリック、しぶとい初老の刑事がそれを地道に照明していく様子など、一コマ一コマが非常に丁寧に描かれています。結果として、米国人牧師は、教会、ひいては世界中から守られ、日本国家に逮捕されることは無く、当時の日本警察の無力さと無念さがにじみ出ています。また、女性の遺族も、米国人牧師と深い仲になり、倫理観や貞操観念の問題にさらされて、傷つき、味方であるはずの親類、ひいては国内から批判を浴び、嘲笑にさらされるなど、過酷な事件後も心が痛みます。捜査の過程をつぶ...この感想を読む