陰の季節の評価
陰の季節の感想
管理部門中心の話だが、推理も楽しめる作品
捜査畑以外に注目した話通常の警察小説と呼ばれる小説では犯罪が起こり、刑事が様々な証拠を集め、犯人の動機を探り犯人にいきつくというストーリーがほとんどです。その中で一緒に推理をして楽しんでいくイメージなのですが「陰の季節」では捜査畑以外の部署に主眼を置いてストーリーが進んでいきます。人事課に所属する二渡、監察課に所属する新堂、警務課の七尾、秘書課の柘植をそれぞれ主人公とした管理部門中心の短編集でした。 第一話:陰の季節警察でもこんな風に人事で色々とあるのだなあというのが最初の印象ですね。その職種に身を置いたことのある人でないと想像できないかもしれないですね。一般の企業のように、人事発表の時期にはそわそわしたり、自分より能力の劣るものが出世したりという出来事が警察でもあるということが新鮮に感じました。それこそ警察の管理部門などは犯人を挙げるなどの成果が見えにくいので年齢などでエスカレーター...この感想を読む
目の付け所がいい作品群
背景に重きが置かれている警察の管理職を主人公にすえた短編集でした。各短編で主人公も代わりますが描かれる母体となる組織は同じという作りになています。主なものに、三年という約束の天下り先をなかなか辞めてくれない元本部長との交渉とその背景、スナックのママとの関係を調査される出世をあきらめた実直な生活安全課長とその背景、婦警の失踪とその背景、議員の爆弾質問予告とその背景といた作品群です。こうしたそれぞれの作品のキーワードを書いていて思ったのですが、この作品集はすべてその「背景」に重きがおかれています。背景と言って言い過ぎなら、「なぜ?」がキーワードです。なぜ主人公は、こんなことになっているのか、という疑問ですね。みんな知りたい。ということはすでに、登場人物の背景を含めての人物設定段階で、この作家は勝ちをものにしていると言えます。素晴らしいセンスというか目の付け所がいいというか。アイディアが豊富...この感想を読む
読み応えあり
ドラマをみてから本を読み始めました。警察モノというと刑事か鑑識が主人公のパターンが多い中で、人事担当者が主人公のこの物語は新鮮でまた違った面白さがあります。心理戦や人と人のしがらみですね。天下りで就任したポストの座から、約束の期になっても降りようとしないOBの説得にあたることになった主人公。なぜOBは約束をたがえてまでそのポストに残ろうとするのか・・・・それを追ううちに、過去の未解決事件が浮かび上がってきます。そして意外な展開が。普通の会社とは違う警察という特別な社会の中の人事。穏やかで飄々としているようにも思える、しかし切れ者の主人公の腕が光ります。