目の付け所がいい作品群
背景に重きが置かれている
警察の管理職を主人公にすえた短編集でした。各短編で主人公も代わりますが描かれる母体となる組織は同じという作りになています。主なものに、三年という約束の天下り先をなかなか辞めてくれない元本部長との交渉とその背景、スナックのママとの関係を調査される出世をあきらめた実直な生活安全課長とその背景、婦警の失踪とその背景、議員の爆弾質問予告とその背景といた作品群です。
こうしたそれぞれの作品のキーワードを書いていて思ったのですが、この作品集はすべてその「背景」に重きがおかれています。背景と言って言い過ぎなら、「なぜ?」がキーワードです。なぜ主人公は、こんなことになっているのか、という疑問ですね。みんな知りたい。ということはすでに、登場人物の背景を含めての人物設定段階で、この作家は勝ちをものにしていると言えます。素晴らしいセンスというか目の付け所がいいというか。
アイディアが豊富にあるんでしょうね。しかもそれぞれのアイデアは、言われてみれば私たちにも思いつきそうと言えば語弊がありますが、荒唐無稽では決してないところに、共感できる現実感が生まれています。
読み出したら止まらない一気読み
また、特に組織で仕事をしている人にとっては、人ごととは思えない、身につまされる話ばかりではないでしょうか。少し、読み出したらページをめくる手が止まらない一気読みの作品集ですね。
それから、なんといっても雰囲気が素晴らしいです。ピーンとした緊迫感が全編にみなぎっています。それは、登場人物を取り巻く困難やトラブルの提示と、それを解決しようと動く主人公達のあせりや性急さがあることによるものです。
人はみんな暗い何かをもっています(もっていない人なんていないでしょ?という問いかけもあるような気がします)。過ちだったり、不可抗力だったり。
この小説はとにかく、素晴らしいと思いました。
気持ちよい読書には不向き
ケチをつけるなら、最後のオチが今ひとつだったり、奇妙な偶然が重なったり、なぜ?に対する答えそのものもはっきりしなかったりする短編もありますが、いずれにせよどの作品も読後感というか、余韻がしっかりと残り、決してあっけなさやばからしさを感じたりはしない短編集だった。
また時間があって、気持ちよい読書をしたいと思う時には不向きですね。特に自分自身が今、仕事で問題を抱えているような時にも不向きな作品群。なぜなら、ますます落ち込んでしまう可能性ありです。
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