蒲公英草紙のあらすじ・作品解説
『蒲公英草紙』とは、恩田陸の切ないファンタジーであり、第134回直木賞候補となった作品である。「青春と読書」に2000年1月号から2001年2月号まで全14回連載され、他に「小説すばる」に連載された『光の帝国』と『エンド・ゲーム』との3作を合わせて『常野物語』(とこのものがたり)とされている。 昭和初期宮城県の農村で、少女峰子は大地主である槇村家の病弱の娘聡子の話し相手として屋敷にあがった。やがて不思議な能力を持つ「常野」と呼ばれる一族の、春日一家がやってくる。彼らは膨大な書籍や人物を「しまい」、それを「響かせる」ことを生業としていた。ある日、村が豪雨におそわれ、峰子と聡子、そして村の子どもたちに危険が迫る。心臓の弱い聡子は毅然とした態度で村の子どもたちを守り、しかし自分は濁流にさらわれてしまう。聡子を失った悲しみにくれる人々に、春日一家の長男光比呂は皆の前で聡子の一生を「響かせる」ことで慰める。懐かしい風景、切なさ、悲しさ、愛おしさが交錯する長編小説。
蒲公英草紙の評価
蒲公英草紙の感想
時代の波に飲まれる前の主人公の幸せな少女時代
常野一族シリーズ第2弾。長編小説です。私は恩田陸の作品は長編よりも短編が好きなのですがこの蒲公英草紙だけは別。冒頭主人公が回想をする所から始まります。「幸せな時代というのは過ぎて初めて幸せだと気が付く」日本が戦争を始める前の長閑な田園風景。体の弱いお屋敷のお嬢様と過ごす日々。お屋敷を訪れる常野一族春田家族との交流。優しく暖かく流れる少女時代の時間。やがてやってくる戦争の足跡がまだ届かない幸せな日本の無垢な懐かしい風景。回想から始まる物語は主人公の今に還って幕を閉じます。幸せな少女時代との落差が激しく主人公のこれからを思うと声援を送りたくなります。主人公のこれから。そして私たちのこれから。生きにくい時代をたくましく生きていかねばならないというのは共通しているのかもしれません。
人と、常野の温かな繋がり
常野物語、2作目。1作目とは時代背景が違います。また、最初から最後まで、常野ではない一人の女の子の日記(蒲公英草紙)のような視点で書かれています。村の大地主であり代表的存在の「槙村一族」と、そのお屋敷の隣に住む医師一家の娘「峰子」、そしてひとつの場所にとどまらない特異な存在である「常野」。この本を読み始めてすぐは、1作目の「常野」の存在が好き過ぎたために、なかなかメインが出てこない、つまらない・・・と思っていましたが、そんなことはありませんでした。今回は、常野一族だけでなく、他の登場人物も非常に魅力的なんです。特に、洋画家の椎名さん!笑槙村の末娘聡子様はもちろんです!そこにいるだけでなぜか周りの空気を換えてしまう人って、確かに存在します。常野物語シリーズは、そういう不思議な人と人の交わりを、ファンタジックに描いた作品だと思います。この感想を読む
常野シリーズ2巻読みました。
恩田陸さん大好きです。青春物からラブストーリーまで様々を書いてらっしゃいますが、このシリーズはファンタジーになるのかな。多少ホラー要素もありますが、怖い描写をメインにしてはおられません。前作の光の帝国は短編集でした。少しずつ常野の一族の断片が書かれていて、想像しながら読み進みぞっとしたりしてファンタジー色が強かったです。こちらの方は長編で、一族と世の中のかかわり方や生き様などがメインでしょうか。淡々とストーリーはすすむし切ないラストなんだけど、どこか心になじむ不思議な物語です。戦前の話なので時代設定もありますが、懐かしい感じがして好きな作品です。でもスッキリはしないかも。一族の伝記を読んでいるような印象でした。