坑夫のあらすじ・作品解説
「坑夫」は、1908年に朝日新聞に掲載された、夏目漱石の小説である。 漱石の作品としては珍しく、炭坑で働くブルーカラー・ワーカーの生活を扱ったルポルタージュ的な異色の小説であるが、「自分の話を是非小説にしてほしい」という見知らぬ若者が、漱石のもとを訪れたのがこの作品のきっかけであった。漱石は最初あまり気が乗らなかったが、朝日新聞に掲載予定であった島崎藤村の「春」の執筆が滞り、彼が急遽ピンチ・ヒッターとして連載小説を書かなければならないこととなって、この人物の申し入れを受け入れることになったと言われている。 人間関係のもつれから、東京を飛び出した裕福な家庭の青年が、半ば自殺してもいいという気持ちで鉱山で働くことになるが、診療所の健診で気管支炎と診断され、帳簿付けの仕事を手伝いながら約5か月間働いてから、東京に帰ることになるというストーリーである。 漱石が職業作家として書いた作品としては、「虞美人草」に次いで第二作目となる。
坑夫の評価
坑夫の感想
うまい描き方
漱石先生作品でもあまり有名じゃない話ですが、他の人から聞いた抗夫の仕事を書いたという珍しいパターン。やはり主人公はアンニュイな感じ。その主人公の気持ちが抗夫という仕事や人に触れ、変化していくのが素晴らしい。地獄のような鉱山の地下深く、暗闇の中を潜るように、地底へ降りていく青年。やがて意識の流れは、暗闇の中で、か細く光る内面へ旅をしている。特に前半部分の心の描写、意識の流れが絶妙です。漱石先生はこういう書き方もできるんだな~と恐れ入った次第です。どん底に突き落とされ、何度も死を覚悟した。そんな中でささやかな生き方を見つめなおしていく主人公。
青々しい
まず、主人公は19歳で家を飛び出すのだが、19歳で家出ってある意味すげえなあとおもった。今の時代だと19で家出と聞くと、なんかかっこ悪い響きだが、昔の時代だとその年で家出というのはすごいことだったのかもしれない。しかも、主人公は、見ず知らずの仕事斡旋業者に抗夫という自分から一番遠いであろう職業を進められる。そして、自暴自棄になっていたせいもあり、その職に就いてしまうのだが、それもすごい事だと思う。やはり、人は、死を覚悟したらなんでもできるんだと思った。ある意味、軽いようで物凄く深い事を夏目漱石は伝えたかったのかもしれない。一度読んでみるべき小説だと思う。
漱石作品では一番好き
漱石のもとを、この話を小説にして欲しいと言って男がたずねて来ました。男は恋愛沙汰により自殺を覚悟して家出をし、当てもなく歩いていてであったポン引きの長蔵に誘われるがまま抗夫として働くことになります。元々いいところの坊ちゃんだった主人公が、今までに食べたこともないようなまずい飯を食い、南京虫に食われながら眠るような極限状態の生活を、人間以下だと思っていた連中と共にする。その中で人柄のいい人との出会いもあり、「もう帰れ」と言われながらも最後まで仕事をした主人公は、確かに人間的に成長していきます。漱石の小説の中では異色といえますが、大好きな作品です。