境遇をどう受け入れるか。 - 境遇 絵本付特別版の感想

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境遇 絵本付特別版

4.004.00
文章力
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ストーリー
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キャラクター
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設定
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演出
2.50
感想数
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境遇をどう受け入れるか。

4.04.0
文章力
5.0
ストーリー
3.0
キャラクター
4.0
設定
3.0
演出
2.5

目次

同じ境遇を持つ晴美と陽子。

陽子のセリフで「私たちが親友になれたのは同じ境遇だからなのかな」というものがあります。タイトルにもなっている「境遇」という言葉。その人の家庭環境だったり経済的な状況や人間関係などことを言うわけですが、生後まもなく養子として現在の両親に育てられ、県議会議員の夫がいて絵本作家としても成功している陽子と、18年間児童養護施設で育った晴美は同じような境遇と呼べるのでしょうか。本当の親を知らないという共通の境遇に置いては同じと言えるのかもしれないですが・・。

ただ、作品は晴美の視点からの文章と陽子の視点からの文章とが交互に来ているのですが、陽子の視点の部分を見てもあまり上から目線な印象はなく純粋に晴美のことを信頼していて、ただこの友情は同じ境遇というつながりがなければ成り立たないものなのかという不安が感じられました。

一方晴美は不倫相手に「今日は幸せな奥さん代表みたいな人に取材をしたから・・」と話したり、別の場面で、「どこまで陽子はあまいのだろう」と苛立ちを覚えたりと晴美に対して劣等感のようなものを感じている印象がありましたね。

ただ、境遇が互いを強く結びつけるものであるなら境遇により結びつけないものもあるのではないかと不安になっている陽子に、母の思い出である青いリボンを切って腕に結んであげるという行動は感動的でしたね。読み進めていき、はじめのうちは親に捨てられたという境遇が一緒なこと意外は恵まれた環境にいる陽子を晴美が恨みぎすぎすした話が進んでいくのかと思いましたが、読めば読むほど2人の友情が確固としたものになっていく流れが意外ではありました。

 

誘拐犯が「公表しろ」と要求する内容とは?

ある日、習い事から帰ってこなかった陽子の息子・祐太。迎えに行くはずの夫の秘書の亜紀が明らかに犯人と共謀しているような印象はありましたし、第一部に出てきた怪しい中年女性が誘拐したと思われるような書き方ではありましたがなんとなくそうではないのではないかなあと最初の印象で思いました。事務所に届いた誘拐犯からの脅迫文には「真実を世間に公表しろ」とありました。

白川渓谷事件(通報したために誘拐された女子高生が殺された事件)にも触れてあるし、通報できないという状況でした。でもこれどう見ても顔見知りの中に犯人がいて通報されないために白川渓谷事件に触れているだけだなという印象でしたね。

第二部の中心になっているのは犯人が要求する「真実」とは?という点ですね。夫の高倉正紀議員は半年前に不正献金疑惑で取り調べを受けたので事務所の面々もその点だと思い込んでいたみたいですね。私も読みながらその件だと思いました。

陽子が途中で真実とは自分の境遇のことだと気づくのですがそれも晴美との会話の中で陽子が気づくように晴美が誘導していましたよね。

最後まで読んだからこそ思うというわけではなく、読んだタイミングの時にすでになんだか誘導されている?と思えるような会話の流れでした。あくまでも晴美が伝えるのではなく陽子が自分で気づくような流れでしたね。 

樅の木町殺人事件との関係とは?

脅迫状にヒントとして出されていた「樅の木町殺人事件」について調べていくうちに下田弥生という女性にたどり着いて、陽子は自分が36年前の樅の木町殺人事件の加害者の娘であるということに気づくわけですね。これに関しても第二部のあたりで一度そう感じてしまったからか晴美が誘導しているようにしか思えませんでした。

真実の公表後にわかった本当の真実とは?

「ミツ子の部屋」って・・という感じでしたが()

離婚を決意してテレビ番組で自分の境遇の告白を決めた陽子。そこに夫の正紀も出てきて不正献金疑惑に関しての告白をしたわけですが・・

まずは現実世界でこんなことが起こるわけがないというところが少し冷めてしまう部分ではありましたね。小説では往々にあることではありますがもう気持ちいいくらい現実離れしているならまだしもある程度現実でもありうるような状況で、ここにきてこのぐらいのレベルでの現実離れというのは少し微妙でしたね。

そして夫の正紀が出演し自身の問題に関して告白した真意はなんだったのだろうかという疑問がありましたね。正紀からは作品の初めから陽子に対する愛が感じられて、陽子の境遇を知ったうえで変わらず愛してくれているのでその愛をこの出演で表現したかったのかと思いましたが。

その段階で犯人は晴美だということがわかり、他の感想などでも見かけますが早めに犯人がわかってしまうところがいまいちとありましたがこの後の展開を考えるとここで犯人がわかるのは仕方なかったのではと思いました。

全体的に予想がしやすい点が多かったですが加害者と被害者の娘が晴美や陽子が思っていた真実と逆だったのは予想外だったので、その点はとても面白かったです。でも確かに、陽子の周りをうろついていた中年女性が弥生で、弥生は絵本を読んで陽子を娘と思ったわけで、あおぞらリボンは晴美の話をもとに書かれたものなので、ここで弥生=晴美の母ともっと早い段階で気づくべきでしたね。実は簡単な結末でしたね() 

最後に

湊かなえさんの作品は「告白」「贖罪」「Nのために」などなど多数読ませていただいています。えー!?と思うような結末も多く実際声に出してえー!?と言ったことがあります()そんな中で今回の作品は犯人が予想しやすかったですね。動機も細かい内容は読み進めていかないと難しいですがなんとなくは想像しやすかったです。自分では変えることの難しい境遇、特に生まれた瞬間からの境遇は変えられませんよね。その境遇に苦悩しながら違う形で受け入れていく晴美と陽子の姿が印象的でした。

また、その境遇だけで培われたわけではない2人の友情が見ていて印象的でした。ただ、本当に友情を感じていたらこんなことしないのでは?という感想は持ちましたが。あと、なんだかいつもの湊かなえさん作品とは印象が違うなあと思った理由はドラマ向けに作られたものだから、という理由ですぐに解消しました。どんな境遇でも受け入れ、その後の人生(特に人間関係)は境遇だけに左右されるわけではないと感じられた作品でした。

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