休日でもやはり事件に巻き込まれる?十津川警部の関係者の辛い運命
目次
刑事は実際どのくらい休めるのだろうか?
徳間文庫の「十津川警部の休日」は、休日がらみの4つの短編で構成されている。
必ずしも十津川警部の休日の話だけではなく、純粋に十津川の休みの日の話は「友の消えた熱海温泉」「河津七滝に消えた女」の二編で、「神話の国の殺人」は十津川の友人の休日、「信濃の死」は、亀さんの休日の話だ。
この作品のタイトルを見た時、刑事という職業は実際どのくらい休みを貰えているのか非常に気になった。刑事もののドラマや一連の十津川シリーズを見ていると、どう考えても週休二日が完全に守られているとは思えない。有休なども権利としては存在していると思うが、実際消化できているのか疑問である。
そんな中、ある質問サイトに刑事はどのくらい普段休みがとれるのかという質問が投稿されていて、それに刑事の妻と名乗る方が回答されているのを見かけた。
大方予想通りで、休みがないわけではないが、担当する事件によっては2か月ほどろくに休めないことも実際あるとのことだった。
しかも十津川の場合、今までもプライベートで友人や元恋人が事件に巻き込まれるなど日常茶飯事であり、当然休日も無事に過ごせているとは思えない。案の定、この短編でも殺人事件に遭遇している。
しかし、そんな多忙な中、友人の誘いに応じて熱海に行ってみようと思ったり、妻に家族サービスをしようと旅行に行くだけ、十津川は仕事ばかりの人間でもないと少しホッとする面もある。亀さんに至っては一人旅に出るという、家族がいるとなかなかできない気分転換を図っている。
結果事件に巻き込まれても、友人・家族とのコミュニケーションや、自分の命の洗濯に心配りが出来ているところに、人間味を感じる短編集である。
「友の消えた熱海温泉」の救いようのなさ
本来、この作品は何事もなければ、絵描きの友人本山と十津川が熱海で楽しいひと時を過ごす休暇となるはずだった。しかし、本山は約束の時間に現れず、十津川は一人虚しく熱海で過ごして帰宅する羽目になる。
約束を破った理由は本山が殺害されていたからなのだが、この作品は推理やトリックを暴く楽しさというより、ひたすら十津川が本山の安否や心理を心配したり想像したりが目立つ話で、ラストもなんとも言えない救いようのなさが横たわった、暗さがあるストーリーだ。
本山が多忙な刑事の十津川を久々に誘ったのも、自分のそんな運命を感じ取っていたからかもしれない。
十津川夫妻の魅力を感じる「河津七滝に消えた女」
事件としては残酷で、謎解きミステリーとしては興味深い作品であるものの、十津川夫妻が旅行中に起きた事件ということで、妻直子の勘の鋭い助言が事件の解決のヒントになる物語である。
直子は他の作品でも度々鋭い指摘で捜査に行き詰った十津川に知恵を与えることがある。かえって事件の渦中にいる人間より、蚊帳の外にいる人間の方が、物事の全体を冷静に俯瞰で見ることができるのかもしれない。
この作品では、十津川が直子とグループ旅行中に、靴紐が切れたことにして、直子と二人きりになるために待っていたエピソードなどが紹介されている。十津川と直子が交際して結婚に至ったのはそんな昔のことではないと思うと、アラフォーの男性がこんな可愛らしい方法で二人きりになるきっかけを作ったというのはかなり微笑ましい。
この想い出は結果的には事件の解決のヒントの一つになるのだが、多忙な十津川が今回の夫婦の旅行以外に、直子も含めたグループで旅行をしたりしていたのかという事実も何だか意外性があって、まさしく十津川警部の休日という短編集にふさわしい作品と言える。
想い出が辛さに変わってしまった「神話の国の殺人」
タイトルが神話の国の殺人とあるが、この作品は舞台となっている場所が高千穂という日本の神話にゆかりのある場所になっているからであり、神話自体は余り事件とは関係ない。中でも天の岩戸が重要な舞台になってはいるが、西村氏の十八番の鉄道ミステリー要素が強いこの作品は、歴史ミステリーというカテゴリーではない。
しかし、十津川の友人岡部の妻ひろみは、十津川が大学時代、少なからず心を寄せていた女性であったようで、彼女が殺害されたということはまたも十津川の元思い人が殺されてしまうという嫌なジンクスを積み上げてしまう結果となった。しかもよりによって友人の妻ということで、学生時代の思い出がまた一つ辛いものとなってしまう悲しい事件だ。事件は解決するものの、非常に十津川自身にとっては後味の悪い記憶となってしまいそうだ。
鉄道ミステリーを楽しめる亀さんの休日「信濃の死」
亀さんはなんだかんだで結構鉄道好きのようだ。鉄道がらみの事件をいくつも十津川と解決している経験があるが、十津川は特段鉄道に必要以上の興味を持っているとは思えないのに対し、亀さんは多少列車のことに詳しいように思う。
いくら妻子が親戚の家に行ってしまったからと言って、1人で長野県に電車で旅行して、野沢菜の入った釜飯の弁当を食べたいと思うなど、どう考えても鉄道好きとしか思えぬ行動である。
ミステリーとしては、鉄道のトリックが駆使されたものの上、土産物にもトリックが仕組まれていて非常に興味深い。鉄道好きの亀さんの休日ならではの作品と言える。
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