愛すべき若かりしトム・クルーズ!
目次
ストーリーは大騒ぎドライブから始まる
この映画は、兵役が終わった兵隊たちが大騒ぎしながら車を飛ばし、長距離バスを止めて乗り込むところから始まる。もちろん乗り込むのはトム・クルーズ演じるブライアンだ。ハリウッド映画で時々車の窓やらサンルーフから身を乗り出して、大騒ぎしながら走る場面がよくある。「ミッシングID」にいたっては、映画始まって早々、車のボンネットに乗ってスピードを出せと騒ぎながらパーティに行っていた。ああいう場面を見る度に何が楽しいのかとよく思っていたけど、今回のはなぜか楽しげで解放感があって、こちらまでうれしくなってしまうくらいだった。
あの解放感あふれる笑顔はトム・クルーズならではだろう。「ザ・エージェント」でも独立して初めて大きな契約が取れた時、「アイムフリー!」とあの笑顔で歌っていた。なのでなんかいい始まり方だなあと思えた。
もともと「カクテル」は公開当初に観ている。当時はそれほど何も思わず、トム・クルーズかっこいいくらいの感想だったのだが、年をとってもう一度観るといろいろな面白さがわかってくる。最近そういうことが多くて昔観たことのある映画をよく観るのだけど、そういう発見がある度に、年をとって良かったような、自分も当時から少し成長したのかと実感できるような気がして、ちょっとうれしかったりする。
この映画もそう感じさせてくれた映画だ。
思わぬ難関だった就職活動から出会ったバーテンダーの仕事
大金を稼ぐという野望を胸に、ニューヨークに降り立ったブライアンだけど、事はそうスムーズには進まなかった。イメージ的にはアメリカは兵隊に優しいと思っていたのだけど、そこはウォール街。学歴がなければ仕事は何一つもらえなかった。この時の、ありとあらゆる会社にありとあらゆる言葉で仕事を断られている画面が続くのだけど、ここはどことなく「ザ・エージェント」の冒頭部分を思わせた。ともあれ、とりあえずアルバイトの気持ちでバーテンの仕事にありついたブライアンは、そこで思わぬ才能を見せ始める。
とはいえ、初めは誰でも素人。カクテルの名前のわからず、作り方も知らず、人が多すぎてオーダーさえさばけない。その時の怒ったようなパニック顔がいかにもトム・クルーズらしくキュートで、かなり微笑ましかった(あの表情は「レインマン」の頃から変わらないなと思ったら、あの映画もこの「カクテル」と同年に公開されていた)。
それをからかいながらも、育てていくのはオーナーのダグ。ニヒルな表情が印象的な俳優だけど、私はこの映画でしか知らない俳優だ。この彼もいい味を出している。ブライアンを息子のようにも弟のようにも扱うその態度は、見ていて心地良かった。
四苦八苦しながらバーテンダーの道を歩み始めたブライアンは、めきめき上達し、フレアバーテンディングを身につける。この派手なパフォーマンスで2人はたちまち知れ渡り、有名店から勧誘されることになった。そこで2人は人気バーテンダーになるのだけど、このバーがどうもあまり好きではない。店が大きすぎて人が多すぎて、バーというよりもまるでクラブだ。アメリカのバーが全部が全部こうではないと思うし、こんな大きな店で働けるブライアンのバーテンダー能力のすごさをわかりやすく見せたかっただけかもしれないが、あまりブライアンにはあっていないように感じた。
ダグに恋人をとられたことで、成功の絶頂にありながら2人は仲たがいする。でもこの店は彼にとってあまりよくないような気がしたので、仲たがいして店を出て良かったと思ってしまった。
開放的なジャマイカの浜辺で働くブライアン
ジャマイカの美しい浜辺の小じんまりした店で働くようになったブライアンは、前の有名な大きな店よりものびのびしているように見えた。そこで観光客として訪れていたジョーダンと電撃的に恋に落ちる。この恋に落ちた二人の甘い場面が長く続くのだけど、これがいい。もし自分が若い頃に見ていたら退屈で少し恥ずかしいようなこの場面が、年をとるとこんなに良さが心に染みてくるものかと思った場面のひとつだった。心から2人が愛し合っているのがわかる。甘いこの場面は、「カクテル」の中でも好きな場面のひとつだ。
そこにダグが現れる。昔のつまらないイザコザは水に流し2人は和解する。ここは良かったと思っていたのに、どうもダグの雲行きが怪しい。どうもブライアンに絡みすぎる。ちょっと違和感のあるこの絡み方はダグらしくもないし、好きではないけれど、もしかしたら富豪の女性と結婚したことでダグにゆがみが生まれ始めたのかなと思った。
若いブライアンはダグのわかりやすい煽りにそそのかされてしまい、お金持ち風のマダムを誘惑して浮気をしてしまう。ここが若いゆえの馬鹿なところなのかもしれないが、逆に馬鹿すぎてリアリティを感じた。それを目撃したジョーダンはニューヨークへ帰ってしまい、ブライアンはマダムの若い恋人として、ジャマイカを出る。
そのマダムであるケリーに連れられ、豪邸で贅沢なものに囲まれて暮らすブライアンの常に憂鬱な表情が印象的だった。成功してこんな生活を夢見ていたはずなのに、何か違う感をトム・クルーズの表情でリアルに感じることができた。
結局そこでは自分の場所と幸せを見つけられずにケリーとは別れたブライアンは、ジョーダンの働く店を探し、彼女を見つけることに成功した。
トム・クルーズだけでない名優たちの演技
ここまではトム・クルーズの演技と笑顔に気を奪われてばかりだったけど、実は周りにはかなりの俳優たちがそろっている。まずブライアンの恋人役のジョーダン。彼女は「バック・トゥ・ザ・フューチャー2」から出ていたジェニファー役のエリザベス・シューだ。「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のジェニファー役だったクラウディア・ウェルズの代役として出ていた彼女は、違和感なくジェニファーを引き継いでいてすごいと思った記憶がある。あんな人気映画の重要な役の代役など、誰しもあまり引きうけたくないだろう、それをあそこまで自然にこなすことができる俳優はそうはいないと思う。
あとケリー役のケリー・リンチ。「カーリー・スー」は知的ながらも情の深さを感じさせたし、「チャーリーズ・エンジェル」でもセクシーさを存分に発揮していたが、この映画でも魅力的なマダムを演じてまさにはまり役だった。強気だった彼女が最後に見せた弱さが印象的で、素晴らしい演技だったと思う。
印象的な主題歌、名曲「ココモ」
この歌を知らない人はいないのではないか。ビーチボーイズの名曲、「ココモ」だ。この映画の雰囲気にぴったりで、挿入歌なり主題歌なりというものはこれくらいの存在感がなければだめだというお手本のような選曲だ。
もともと映画に音楽や効果音は必要ないと思っているけれど、これは全く悪くない。音楽があっても悪くない映画として、まずこの映画をあげたいくらいだ。
最高にハッピー!な終わり方
ジョーダンとよりを戻し(ブライアンがチキンクリームを頭にかけられるところは、秀逸だった。あれをかけられてもあんな笑顔ができるのがブライアンの懐の深さだ。そしてトムの演技力の賜物だと思う)、結婚して、念願の自分の店を出す。ダグは不幸な死に飲み込まれてしまったけれど、彼と一緒に出すはずだった店の名前を、自分の店につけた。「カクテルと夢」。しかもブライアンらしい、バーとはこういう店だという感じのアットホームな店でうれしかった。
そこでジョーダンはブライアンに子供が双子だということを告げる。感極まったブライアンは客のみんなに今日はおごりだ!と言うのだけど、一緒に店にいたロンおじさんが「だめだ!」と止めるところが、最初にシーンにつながって(あの、絶対におごったことがないと言い切ったときのロンおじさんと常連のおじさんとの会話も好きな場面のひとつだ)、最高にハッピーな終わり方だった。
この映画は公開当初に観たときよりも、確実に今のほうがいいと思える。自分の年のとり方も悪くないなと思わせてくれた映画だった。
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