歩行祭 - 夜のピクニックの感想

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夜のピクニック

4.754.75
文章力
4.75
ストーリー
4.50
キャラクター
4.75
設定
4.75
演出
4.63
感想数
4
読んだ人
36

歩行祭

5.05.0
文章力
5.0
ストーリー
5.0
キャラクター
5.0
設定
5.0
演出
5.0

目次

「夜のピクニック」

この本と出会ったのは、高校生の時である。貴子と融と同じ高校3年生の時。読解問題でこの本の存在を知った。作者の名前に見覚えがあり、ちゃんと読みたいと思った。高校生の時に自分でアルバイトをして稼いだお金で買った本だから、すごく愛着がある。表紙も気に入った。厚めの文庫本だったので、ゆっくり時間をかけて読んでいこうと決めていた。背表紙にかかれている「永遠の青春小説」というフレーズ。ここが一番のお気に入りである。読んでいる合間、読み終わった後に感じていたことは、「夜のピクニック」を高校生のあの時に出会い読めたこと、高校の10分の休み時間に、窓際の一番前の席、カーテン越しの日向が心地よいあの席で読めたことが何よりも嬉しかったのである。

「青春」ってなんだろう。

背表紙の「永遠の青春小説」このフレーズは、目にするたびに私をドキドキさせる。中学から、高校に進学するとき、少女漫画まではいかないが、cmでよくあるような甘酸っぱい「青春」を思い浮かべていた。彼氏ができたり、デートしたりするんだろうなーというような。しかし、この本を読んでから「青春」が大きく膨らんだ気がする。「永遠の」、この言葉も、大好きである。

『昼と夜だけでなく、たった今、いろいろなものの境界線にいるような気がした。』 

境界線か。高校3年生は大人と子供の境界線なのかな。もうすぐ、卒業か。今、私がここにいることは、死と生の境界線なのかな。過去と未来の境界線。これから、自分がいつも境界線にいることを意識しながら生きていくことになりそうだなと頭の中で言葉にした。

『忍は几帳面な手つきで眼鏡を拭いた。』

ちょっとふざけると、「忍、眼鏡かけてたんだ!」って驚いた(笑)。

『ふーん。甲田貴子だったらいいわけ?』

忍の一言である。ひやかし具合が、微笑ましい。自分が言われてるような気分にもなった。

『そこに林檎があるとわざわざ口にしなくても、林檎の影や匂いについてちらっと言及さえしていれば、林檎の存在についての充分な共感や満足感を得られるのだ。むしろ、林檎があることを口にするんなんて、わざとらしいし嫌らしい。そこに明らかに存在する林檎を無視することで、彼らは一層共感を深めることができる。そのことを、二人は誇りにすら思っていたのだ。』

この文章を読んでいる時、ずっと心にあったことの正体がやっと掴めた気がした。小学校の高学年くらいから、ペラペラ話すことが体に染み付いていた。沈黙が苦手なわけではないが、何かを話していないと精神のバランスが取れなかったのだ。それから、全く話をしなくなったりもした。しかし、何かが違うと引っかかっていたのだ。そのことが、私の中では、この文章に重なった。私がしたかったのはこういうやりとりだった。こういう風に会話がしたかったのだ。「林檎の影や匂いについてちらっと言及さえしていれば」、なんだかロマンがある。ロマンといっていいのかは分からない。共犯者めいた感じ、青春。

『なんでこの本をもっと昔、小学生の時に読んでおかなかったんだろうって、ものすごく後悔した。(省略)あれくらい悔しかったことって、ここ暫く思いつかないな』

「わかるー!!!」ってなった(笑)。本に今くらいの興味を持ち始めたのが、高校3年生の9月だった。小さい頃から、たまには読んでいたが、読みたい欲求にかられるようになったのは、その時からである。本ってなんだか特別だ。今は、電子書籍もあったりするが、私は、物となった本も好きである。「夜のピクニック」、自分の部屋の本棚に置いた。ここに青春があるんだ、とっても嬉しい。高校生が出てくる本を読むたびに、もっと早く読んでいたかったと思う。忍が言う「タイミング」が心にしみるけど(笑)。この本は高校生の最高のタイミングで読めたんだけどね(笑)。実は、私は高校1、2年と15キロくらいの歩行祭を経験している。その時のことが、本を読んでいる間に、頭の中に思い浮かべられていた。道も風景も、当たり前だが、全然違う。だけど、もっと鮮明にその時のことを思い出した。1、2年前のこと。一緒に歩いた友達。川沿いの道。季節は春。前日のドキドキ感。気持ちまで思い出してくるんだから不思議だ。歩行祭の経験があっただけに、この本との共通点を無意識のうちにかき集めていたと思う。読みながら、想像する風景は私が歩いた道だった。なんか切なくなってきたぞ(笑)。

『このノイズが聞こえるのって、今だけだから、あとからテープを巻き戻して聞こうと思った時にはもう聞こえない。』

一気に鳥肌がたった。学校が行きたくない日があったり、嫌な友達がいたり、高校生活でいろんなことを経験した。あと3ヶ月で学校にはほとんど行かなくなる。みんなにも会えなくなる。そう考えたら、学校行くのも悪くないなって。くだらない会話しかしてないし、授業はつまらない。相変わらず嫌いな人はいるし。でも、行くのも悪くないかなって。本当のことを言うと、そんなことを思ったのは、本を読んでる間と、読み終わってから1時間くらいだけなんだけどね(笑)。ノイズか、テープを巻き戻して聞こうと思った時にはもう聞こえないのか、、なんだかしんみりくる。

『その間に、「高校時代の恋人」というアルバムの写真を残そうとしてないかい? 最後のページに写真を貼って、項目を書いたシールを貼ってしまえばもう安心。確かに彼は存在したのだと後で言える。』

この文章を読んで、「はっ」とした。全てを見透かされた気がした。高校時代の思い出作りのための、恋人。そんな風になってしまうのも、してしまうのも嫌だ。高校生だけではないだろう。大人になっても自分に問うていたい。本当の大人になるために。

『みんなで、夜歩く。ただそれだけのこと』

『みんなで、夜歩く。ただそれだけのことがどうしてこんなに特別なんだろう。』やはり、一番印象に残ったのはこのフレーズである。私の歩行祭も、この本を読んで一層、特別な思い出になった。高校生活は、高校の入学式、クラス全員が初めて会う人だったこと、春の匂い、中庭の桜、季節が移り変わるにつれて変化していった桜の木、冬のマフラー、電車の待ち時間、憂鬱なテスト、好きな人、歩行祭、修学旅行の前日、あっという間に日が短くなっていた帰り道、たくさん思い出がある。ちゃんと、このことを忘れないでいられるかな。来年、今年と同じように思い出せるかな。そんなことを窓側の席で退屈な授業の間に考えていた。お弁当の時間、この子とお弁当を食べることは、あとちょっとしかないのか。卒業を意識すればするほど、日常はちょっとだけ姿を変える。この本『夜のピクニック』に私の思い出も少し詰まってる。この本を読んで連想したこと、自分の思い出した過去も。何もないところから、思い出すことは難しいが、物を見て思い出すことは、結構多いのだ。歩行会の時の川沿いの歩道を通ると、歩行会のことを思い出す、それと『夜のピクニック』も思い出す。無理やり覚えていようとするのは嫌だけど、またいつか思い出したい。言葉にはできないと思うけど、いろんな気持ちが湧いてくると思う。高校生活も、卒業した後もいつも通過点に過ぎない。ひとくくりにして、終わりよければ全て良しみたいなことはしたくないから、嫌なことも、いいことも、出来るだけそのまま心の中にしまっておくことにした。

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