こんな行事があったらよかった!
恩田陸という作家が世に広く知られた作品ではないでしょうか。紀伊国屋書店の店員がえらぶ「キノベス」、そして第一回「本屋大賞」を受賞した、まさに本好きに選ばれし小説です。
著者が高校時代に実際に経験した、約2日間歩き続けるという学校行事を舞台にした物語です。はじめてこの小説を読んだのは高校3年生の卒業間近で、「あぁこんな行事があったら!!」と思ったことを覚えています。ある登場人物が、「みんなで歩くだけのことがどうしてこんなに特別なんだろう」と話す場面がありますが、まさにその通りで高校時代にしか味わえない一瞬を切り取った青春小説だと思います。
新潮社から出ている恩田陸さんの小説で高校生を主人公にしたものは、他に「六番目の小夜子」「球形の季節」があり、「夜のピクニック」と合わせて青春三部作と言われています。前の2作品がホラー・ファンタジー要素を秘めている一方、夜のピクニックにはそのような場面は一切ありません。実際、著者は当初この小説を「歩きながら昔起きた殺人事件を推理する話」か「歩いていたら生徒が一人ずつ減っている話」にしようかと思ったと、話していました。(今の恩田さんの作風だったらこのどちらかの作品になっていそうです。)ただ、黙々と歩き、しゃべるだけ。それなのに一つの小説として完成されているのは、一重に登場人物の魅力とこの学校行事の特別さのおかげでしょう。特に主人公の2人とそのそれぞれの親友のキャラクターがとても素敵で、いつか何かの短編などで成長した姿が見たいなぁと思ってしまいます。
ちなみに、同じようにただ黙々と歩きながらしゃべるという点で、「黒と茶の幻想」という小説も設定が少し似ています。こちらは「壮年版・夜のピクニック」という感じでしょうか。比較しながら読んでみるのも面白いと思います。
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