スペインの魅力が存分に引き出された開放的な空気感 - それでも恋するバルセロナの感想

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スペインの魅力が存分に引き出された開放的な空気感

4.94.9
映像
5.0
脚本
4.8
キャスト
4.8
音楽
4.8
演出
4.8

目次

海外製作3作目

2008年、スペイン=アメリカ合作。本作は、2004年の「メリンダとメリンダ」から、ニューヨークで撮らなくなっていたウディ・アレンのヨーロッパ出資作品の3作目に当たります。「メリンダとメリンダ」、個人的には好きな作品ですけれど、興行的には今ひとつで、何十年も年に1作品という超ハイペースで映画製作を続けていくにあたって、ウディ・アレンと言えども、コンスタントな資金調達が限界に達したのだろうと、ウディを守る事ができない映画界を、かつて日本で映画を撮れなくなった黒澤明と重ね合わせて、当時はふがいなく思ったものでした。

「マッチ・ポイント」と「タロットカード殺人事件」はいずれもイギリスが舞台でしたが、本作はタイトルの通り、スペイン・バルセロナが舞台。その後ローマでも撮り、パリでも撮り、最新のニュースでは、アマゾンの出資で作品を作る事になったとかならないとか。とにかく、NYでなくても、どこであっても、なんとしてでも自分のペースでとにかく自分の映画を作り続けるのだ、というウディの決意の揺るがなさは驚嘆に値します。

とはいえ、長年のファンとして個人的に親密に思うのは、やはりNYとウディの組み合わせではあります。だけれど、この年齢になってから、この状況の変化の中で、ウディ・アレンがまだまだ新しい面を見せてくれるということに、新たな尊敬の念を覚えます。そのこだわりのなさと、制約を逆に映画の滋養にしてしまうたくましさとバイタリティ。本当にすごい監督だと思います。

スカーレット・ヨハンソンの特筆すべきセクシーさ

主演のスカーレット・ヨハンソンは、「マッチ・ポイント」以降、3作連続での起用。ウディ・アレンに関するドキュメンタリーで観た時、ウディは、スカーレットに関して非常にクールに、ある意味突き放した純粋な「駒」として、あくまでビジネスライクに語っていたのが印象的でした。

ウディ・アレンに起用されたこの3作の、スカーレット・ヨハンソンのセクシーさというのは特筆すべきもので、こんなにもナチュラルなセックスアピールの強い女優だったんだな、とはっとさせられていたので、ウディはさぞスカーレットに魅せられているのだろうな、と思っていたからです。それくらい、いつも妖しいくらいに彼女を美しく撮っていて、もちろん今回もそうでした。

けれども、よく考えてみると、ウディ映画におけるスカーレットの位置づけって、けして「女神」ではないというか、どれもどこかあざとさや愚かさ、みっともなさを含んだキャラクターなんだなと思います。やっぱりウディはウディで、すごく引いた目線で人々の色恋沙汰を眺めているかんじがある。

それでも、こうしてウディ映画に連続で出演して、輝くような特別な美しさを放って、スカーレット・ヨハンソンは一躍トップ女優の仲間入り、のみならず、セックスシンボルとして強烈に印象づけることになったと思います。その後の作品でも非常にセクシーな役どころが多くて、「ドン・ジョン」のようなコメディーなんかでは、完全に開き直ってやっているし、「her」では声だけの出演なのに、やっぱりものすごいセクシーという。

もっとも、ウディの起用は本作が最後になったし、ずっと「セクシー」だけでは行かれないんでしょうけれど、当分は誰よりもエッチな魅力を持つ女優として、楽しませてほしいものだと、同性ながら個人的には思います。

巧みな話術に乗せたスペインのカラフルで開放的なエッセンスが楽しい

本作は、これまで見たウディ作品の中でも一番ウディらしさが薄かった作品だったと思います。一見、ほんとに彼の作品ですか?というくらい、テイストが違って感じられた。にも関わらず、話術が非常に巧みで、カラフルでだれることなく、楽しんで見ました。

彼らしいテイストを優先するのではなく、スペインという土地の力をベースに、その良さを存分に引き出したからだと思います。そして、撮影監督にスペイン映画の巨匠、ハビエル・アギーレサロベを起用し、役者はハビエル・バルデムにペネロペ・クルスをメインキャストに据えるなど、ウディ・アレンらしい合理性というか、色んな部分でスペインの粋を尽くした作りになっているのだと思います。

スペインらしいヴィヴィッドな撮影がすばらしく、スペインの情熱的でエロチックな空気感が全編を通じてよく出ています。

旅人としてヴィッキーとクリスティーナがやってくるという設定による旅の開放感も手伝って、無責任でハプニングの予感に満ちた、わくわくとした自由さは、まさにバルセロナ!というかんじ。そこでハビエルとペネロペという何とも濃ゆい人々に、めくるめくように巻き込まれていく2人のアメリカ娘。

基本的なウディ・アレン的世界における人間模様とか、それぞれのキャラクターの絡み方は、これまでのウディ映画でも覚えあり、というものではあるんだけど、ところ変わればこういう風になるんだ、という面白さがあり、そういう意味でもスペインで撮った意味がすごくあると思いました。

ですが、本作は何より、ペネロペ・クルスです。スカーレットは素敵でしたが、この女豹に完全に食われています。ヴィッキーを演じたレベッカ・ホールに至っては、記憶にすら残っていないほどです。ペネロペの爆発力と、エキセントリックさはコメディーみたいに極端なものなのに、同時にすごく説得力があるというか、本物感があって、スペインというものを大きく体現していたといっても過言ではないインパクトでした。そうそう真似出来ない魅力、素晴らしかったです。

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