実在の風景を思い浮かべながら読める作品 - 壺霊の感想

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壺霊

4.754.75
文章力
5.00
ストーリー
3.75
キャラクター
4.75
設定
4.75
演出
4.50
感想数
2
読んだ人
2

実在の風景を思い浮かべながら読める作品

4.54.5
文章力
5.0
ストーリー
4.5
キャラクター
4.5
設定
4.5
演出
4.0

目次

作中には実在のお店・寺院が多数。ガイドブック代わりにできる一冊

この作品は「浅見光彦シリーズ」の作品であるが、浅見が表向きは京都の四条河原町にある、高島屋のダイニングガーデン京回廊の取材に行くという名目で京都にやってくる。

ダイニングガーデン京回廊とは、実際に京都高島屋内にある食事処が集まったフロアであるが、八起庵の親子丼や、つな八の久蔵丼など盛り付けや味の食レポが詳細に書かれているのが興味深い。

高島屋以外では、京都では有名なラーメン店天下一品のこってりしたラーメンについてや、幽霊の子育て飴本舗で売っている素朴な味の飴のことも非常に丁寧に書かれており、実際に行って食べてみよう、買ってみようという気持ちになるような作品である。

寺院についても、安井金毘羅宮など縁切りで有名な寺院が重要な舞台となっており、実際に足を運んだ人は金毘羅宮の独特の雰囲気を思い出すことができ、行ってない人は一度参拝してみようかと興味をそそられることであろう。

推理以外にもこういった描写で楽しめるのがこの作品の特徴である。

ヒロインがやや元気すぎ?

浅見シリーズでは、毎回登場するヒロインと浅見の関係にも注目してしまうが、壺霊に限ってはヒロイン伊丹千寿があまりに「押せ押せ」モードで、浅見でなくても若干引いてしまう。

男性も、こうも露骨に「彼女候補」に立候補されると、タジタジになってしまうのではないかという典型事例と言える。珍しく「千寿とはどうこうなってほしくない」と思ってしまい、この作品に限っては、あまり恋愛面では期待が持てない。むしろヒロイン千寿ではなく、彼女の先輩の栗原女史との関係の方が、気になるところである。

ノーマークの人間に注目

新たな登場人物が作中次々に出てくるため、序盤から犯人を推測することはできないのだが、全く存在感がないノーマークの人間をうまく犯人にしている作品である。存在感はないのだが、紫式部の壺という事件の重要なキーとなる壺をめぐる捜査では、参考人として話を一応聞いておきたい人物といううまい立ち位置になっている、そういう人物が犯人設定されている。

内田作品では、時にとても印象の良い人間が黒幕だったというパターンもあって、読後に何とも言えなく「まさか」という思いにさせられ切なくなることがあるが、この作品もその「まさか」の部類に入るものである。また、犯人が裁かれるところまで物語では描かれず、この先犯人はどうなってしまうんだろうというところで終わってしまうのも、非常に内田康夫氏らしい終わり方である。

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