ラストに驚愕の事実!もう一度読みたくなる作品
目次
ぼやけたイメージから核心に導く物語
「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ」の読み始めは、暗いイメージが強く、母親殺しをしたチエミを探すだけの物語だと思っていましたが、もっと奥深い心を感じさせてくれる作品でした。特に、後半から神宮司みずほの気持ちの描き方は素晴らしく、読んでいた私は、まるで自分が経験しているような気持にさせてくれます。掴みどころのない暗い作品のイメージから始まり、後半からラストにかけてぼやけたイメージが核心に変わっていく描き方は読む人の心を掴みます。後半は、夜中に一気に読み終えてしまい、しかも読み終えた後は、興奮して眠る事ができませんでした。悲しくて、愛おしくて、そんな気持ちにさせてくれる作品です。
タイトルが最後までわからない
本のタイトルというのは、読み出してから納得することが多いのですが、この作品はラストまで「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ」という謎が解けません。そして、このタイトルがまさか、銀行口座の暗証番号を示していたとは、思いませんでした。このような、謎かけの小説は多数存在していますし、読み進めて行くうちに、わかってきてしまうのですが、この作品に関しては、本当に最後までわかりません。ただし、タイトルである「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ」は、あまりいい題名ではないと思います。とっても言いにくいし、読みにくいタイトルです。
母に告白する前になぜ妊娠判断薬を使わなかったのか?
「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ」の中で、疑問に思う事の一つとして、チエミが母に妊娠を告白する前に、なぜ妊娠判断薬を使わなかったのかに非常に疑問がわきます。心配症であるチエミが、妊娠を確信するにあたって手軽に検査できる妊娠判断役を使わないなんてありえません。特に、今の時代は妊娠診断薬を使うのがあたり前です。心配症のチエミだったら、大地を誘惑する前に買ってしまうはずです。
チエミの妊娠の件で、もう一つの疑問に感じる事に、なぜ大地がチエミを妊娠させてしまうという、失態を犯したかです。結婚を決めている男、そこに元彼女が誘惑しにきたのなら、なおさら妊娠は避けるべきです。この部分でチエミが、妊娠できるような工作をしなければ、チエミの妊娠へとは進まないとおもいます。
物語の前半は想像しにくい
この小説は、主人公の気持ちを中心に描いているせいか、想像しにくい部分があります。特に、物語を把握していない前半部分は、よく考えて読まないと、誰の気持ちを言っているのかわからない箇所がありました。その原因として思い当たるのが、人物の描写が少ない事と、同じ世代の女性が多く登場しているからです。小説ではなく、誰かの日記を読んでいるようです。
チエミの母の存在をどう描くか
「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ」が面白かった理由として、チエミの母の存在をどう描くかです。『殺されても致し方ないチエミとの親子関係があった』そう、読者に思わせなければ、この物語は、つまらない小説となってしまうでしょう。チエミの母親を、精神不安定な母親、子供から子離れできない母親、子供を自分の手元から放せない、子供の存在をまるで自分の持ち物のように扱っている母親なのではないかと、感じさせてくれています。そのお陰で、ラストまでわからない、読み応えのある作品に仕上がりました。
母の愛情は虐待と紙一重
母親という存在は、子供を愛してあたり前の生き物なのかという、母親について考えさせられます。包丁が刺さった状態でも、娘の幸せを願い、「逃げなさい」というチエミの母。しかも、死にそうな体なのに、お金を与えキャッシュカードの暗証番号までも、教えるという、奥深い母の愛が存在を示しながら、みずほの母親のように、娘を精神的に支配し虐待してしまう一面もあるのです。最近でも、親子間のトラブルや事件は、多くなる一方です。深い愛情が、どこかで狂い出し、みずほの母のように我が子を支配し、苛め虐待に発展するのかも知れませんね。
チエミとみずほの再開で全てが溶ける
みずほは、様々な人と会いながら調べ続けることで、チエミと再会できます。その時の描写は、みずほではなくチエミ側の心理描写となっており、その手法がよりラストシーンを盛り上げてくれます。読んでいる私たちにとって、チエミの心もみずほの気持ちも手にとるように、わかる訳ですからなおさらですね。
私はチエミの台詞で「親友なんです」と土下座をする所が、一番感動しました。チエミとみずほ、お互いに子供を失った悲しみを同時に背負った親友です。
チエミからみた、みずほの存在
みずほ側からの視点が長く描かれているのですが、第2章でチエミからの視点と行動を描くことで、物語により深い部分を感じる事ができます。チエミにとってみずほとの一番印象深い思い出は、男の子の玩具で撃たれたチエミの事に腹を立てて、みずほが男の子に掴みかかっていく思い出。チエミにとって忘れられません。2人の親友たる強い絆を確信できる出来事の一つです。
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