塩の街~有川浩~
図書館戦争シリーズにて一躍名を馳せた作家、有川浩氏のデビュー作です。
塩が町々を埋め尽くした世界において、東京湾の真ん中に立つ巨大な塩化ナトリウムの結晶を見た者は塩になってしまうという極限状態の中で生きる人々の生活を描いています。
有川氏の後の作品でも多く見られる、いわゆるミリタリー系の要素をふんだんに盛り込んだ構成となっており、元航空自衛隊のエリートパイロットの青年と、人間らしさを求めるが故に彼を無意識に振り回してしまう女子高生の二人がメインキャラクターとなって物語は進みます。
極限状態の中でむき出しになる人間のエゴ、理想を求めるがゆえに現実にぶつかり、その現実に対して何もできないという無力感、そして何かを為すために自分にとって大切な人を犠牲にできるかという問いを読者に投げかけている作品であると思います。
極限状態における愛、倫理観、道徳観、人としての誇りは守られるべきものなのか。自分の関わった人々さえ不幸にならなければよいのか、自分が直視する現実だけ綺麗なものであればそれでよいのか。こういった問いを頭に入れて読み進めれば、物語により一層の深みが出てくることでしょう。
文体は繊細さを保ちつつシンプルであるため、「道徳や社会正義といった難しいことはよくわからない」といった人にもお勧めの一冊です。
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