こうなれば、もう誰も哂うものはないにちがいない。
禅智内供
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「鼻」は日本を代表する文豪芥川龍之介によって書かれた短編小説である。芥川作品の中でも初期の作品であり、かの夏目漱石からも絶賛を受けたと言われる傑作である。今昔物語や宇治拾遺物語に典を取っている作品でもあり、芥川の古典主義的な色彩が色濃く表れている。 物語の主人公はある身体的特徴を持っているが、それは芥川自身の身体的なコンプレックスの投影だとも言われている。その身体的特徴を軸に物語は進行していくが、そこには芥川独特の人間の心理に対する明敏な観察眼が発揮されている。主人公は自分の身体的特徴をはじめ何とも思っていなかったが、周りの人間がその特徴を嘲笑することによって、大いに自尊心を傷つけられる。しかしひょんなことから主人公はその身体的特徴を消し去ることができると知り、コンプレックスを解消したと思い込んでいたのだが、しかし人々の笑いは相も変わらず絶えることはなかった。ここには人の不幸を嘲笑い、かつその不幸を助長させるという人間の心理が隠されている。
芥川龍之介が、彼の師である夏目漱石からの手紙で、「あなたのものは大変面白いと思います。落ち着きがあって巫笑戯ていなくって自然其儘の可笑味がおっとり出ている所に上品な趣があります。夫から材料が非常に新しいのが眼につきます。文章が要領を得て能く整ってます。敬服しました。ああいうものを是からも二三十並べて御覧なさい。文壇で類のない作家になれます。然も『鼻』丈では恐らく多数の人の眼に触れないでしょう。触れてもみんなが黙殺するでしょう。そんな事に頓着しないでずんずん御進みなさい。群衆は眼中に置かない方が身体の薬です。-----」と、激賞された芥川の文壇でのデビュー作となった「鼻」。あらゆる作家の第一作目となる作品に、その作家のあらゆるものが、投げ込まれているばかりでなく、作家はその生涯を通じて、その作家の第一作に支配され、最も顕著にその作家の核となるものが表現されていると思っていますが、まさしく、この...この感想を読む
芥川龍之介の作品。芥川龍之介は読みやすいし面白いしいいなぁと思います。鼻は短編小説なのですぐ読める。芥川龍之介にらしくこれも『今昔物語』や『宇治拾遺物語』を題材に取り入れています。長かった鼻を笑うものがいたから短くした、しかしその短くなった鼻を見て笑う者が増えた。鼻が長かったときと短くなったときの周囲の人の笑い方の違いに気付いた禅智内供は鼻が短いのが恨めしくなり、そしてなぜか再び鼻が伸びたのであった。他人の不幸を悦ぶ人間、他人の幸福を妬む人間、という龍之介らしい、人間の隠しておきたくなるような心理を描いた作品。ゆでると鼻が短くなるという過程が面白かった。
今昔物語や宇治拾遺物語の中の話を題材にして書かれた、芥川龍之介の代表作です。長くて垂れ下がった鼻の禅智内供は人にからかわれても気にしない振りをしていました。しかし鼻を短くする方法を知り、それに成功したら誰も自分を笑わなくなると思っていたのに、人はやはり禅智内供を笑います。自分を笑う人間に左右されて自分を変えても、決して自分が納得するような結果にはならないという教訓なのだと思います。この話が「新思潮」に掲載され、それを読んだ夏目漱石が「ふざけていなくて面白くてとてもよい」と芥川を褒め、それ以来芥川は漱石を師と仰ぐようになります。まだ若かった芥川はさぞかし嬉しかったことでしょう。
禅智内供
自分の鼻が長く格好悪いのを長年気にしていた主人公の内供が、鼻を短くする方法を弟子に教えてもらったときと、施術をして鼻を短くなった後、以前にもまして嘲笑されてるように感じていたら、その鼻が元に戻った場面。 2度使用されています。 人から笑われたくない、人目を気にしてしまう内供の性格の本質を表す言葉。