いつ見ても心愉しいラブコメディの名作
故ノーラ・エフロンの出世作
ノーラ・エフロンが2012年に白血病で亡くなっていたことを、最近まで知らなかったのです。そういえば最近彼女の映画を見ないな、またそろそろ見たいなと思っていたらまさか。彼女の映画を見ると、心愉しくて、人間の可愛らしさを感じられて、いつも素敵な気分になれました。享年71才。ご冥福を祈ります。
彼女が最後に脚本、監督をした「ジュリー&ジュリア」もすごく好きでした。また改めて書きたいです。
本作品は、監督はロブ・ライナーで、脚本がノーラ・エフロン、1989年の作品です。私がこれまでに見たあらゆるラブロマンス、そしてコメディー映画の中で、特に大好きで何度も何度も見ている作品です。台詞もシーンもみんな頭に入っているのに、見飽きることがないなんて、すごい映画だなあと思います。
ウディ・アレン映画への愛あるオマージュ
ウディ・アレンに多大なオマージュを捧げてもいるこの作品、もちろん分かりやすく色々なウディ映画の枠組みを使っています。でもただのまねごとにはなっていません。
「泥棒野郎」のように、座りのインタビューのシーンが要所要所に入ります。色んなカップルがいて、みんなどこか変で可愛らしい。
世の中には本当に色んな夫婦がいて、他人には訳の分からないなれそめや、日々の暮らしがあって、彼らなりの納得の仕方や幸せ感がある。この絶妙なインサートが、男と女は、みんな違ってみんないいということをすごく感じさせてくれるのですよね。そうして作品の最後に出て来るのは、メグ・ライアン演じるサリーとビリー・クリスタル演じるハリーの夫婦。収まる所に収まって、いかにも慣れた感じで今がある、という風情が何ともいいです。
もちろん舞台はニューヨーク。「ハンナとその姉妹」のように、四季折々のニューヨークの街並や自然の美しさの中での悲喜こもごも、彼らなりの喜怒哀楽を切実に生きている姿をコミカルに描きます。
最悪の印象で始まった出会いから、友だち付き合いを経て結ばれるに至るまでの年月は、結構な長いスパンでもって描かれていて、エピソード毎に細かいシークエンスに分かれている構成は、やはり「ハンナ〜」を思わせますが、群像劇である「ハンナ〜」と違って、「恋人たちの予感」では、常にハリーとサリーの関係性の変化というものを丁寧に追ってゆきます。また時代ごとのファッションの変化を通じて世の中の気分を巧みに表現している所も素晴らしいと思います。出会った時にはファラ・フォーセットみたいなふわふわブロンドのかわい子ちゃんだったサリーが、ニューヨークでワーキングガールとして働くようになった頃の再会では「アニー・ホール」のダイアン・キートンみたいなマニッシュなファッションにすっかり様変わりしていて、という風に。
そして主人公の友だち、友情より恋を取るザ・女友だちに、「ハンナとその姉妹」でダイアン・ウィーストを裏切ったキャリー・フィッシャーがこの作品ではメグ・ライアンを裏切ってくれます。あまりにおんなじ役どころで、笑えます。
音楽も、セントラルパークを話し込みながら横切ったりするのも、みんなウディ映画を彷彿とさせるものですが、とても好ましいオマージュの捧げ方だなと思います。
二人の主演俳優の素晴らしさ
この作品に出演したことで、メグは一躍トップスターの座に躍り出ることになりました。公開当時28才。元祖アヒル口の彼女は、この作品でキラキラと輝いて本当に可愛らしいです。
小生意気で背伸びして、ちょっと肩肘張って頑張ってるんだけど隙だらけ、みたいな風情がとてもチャーミングです。見惚れるほどの生き生きとした生の輝きと若さの美しさがあって、でも自分ではあまり自分自身の魅力に気がついてなくて、賢いと思われたかったり、デキる女を目指したりしていて、おろおろしたりプンスカしたり、無知ゆえで自信満々だったりするのです。
時に滑稽に、時にいじらしく、そして年を追って経験を積むごとに少しずつ人として女性として成熟してゆくサリーという女性を、メグは呼吸するように自然に等身大に演じています。
ビリー・クリスタル演じるハリーも、性格の基本ラインとしての理屈っぽさやシニカルさというものはありながら、大学生時代の奔放さ、結婚の挫折による自信喪失と女々しい男の執着とプライドを経て人として「丸く」「温かく」なっていく変遷を、説得力を持って演じています。
そうして、反発しあっていた二人が、友だちとしてお互いのみじめなところや弱い部分を見せ合い、助け合いながら、やがて誰よりも理解しあえる二人として、状況も手伝って必然として距離を縮めてゆく。
最高の友だちになったと思いきや、「アクシデント」で男女の関係になってしまい、混乱し、もうこれですべて終ってしまうのかと思わせつつの、あの甘ーいラストシーン。やっぱり毎回ほろっときてしまいます。
秋になると毎年見たいこの映画。どんなにくさっていても、落ち込んでいても、見れば確実に気持ちを明るく、またひとつやってみるかと思わせてくれる、私にとってはとっても特別な作品なのです。
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