ブエノスアイレスの評価
ブエノスアイレスの感想
孤独でみじめでどこまでも自由な寄る辺ない日々を耽美的に描く
ウォン・カーウァイの映画に夢中だった20代の頃、ウォン・カーウァイの映画と彼の映画の住人たちに夢中な時期がありました。90年代の初めからウォン・カーウァイは次々と新鮮な作品を発表していて、その耽美的でホープレスな世界観にすっかり魅了されていたのでした。カーウァイは香港人ですが、同じ中国系繋がりで初期のチャン・イーモウの作品にも同時期触れ、やはり強く心惹かれていました。私にとっての中華圏映画の魅力とは、ひと言で言うと非常にある種あけすけで、むき出しであるということでした。それまで見て来たアメリカ映画やヨーロッパ映画にはない、内蔵を取り出して見せられたような生々しさと人間のどうしようもない業、同時に何としても行きて行くという中国人のしぶとさとたくましさの表現に圧倒された、というかほとんどショックで呆気に取られたという言い方が正確なのかもしれません。あまりのあけすけさにうんざりもするんだけれどど...この感想を読む
憂いあふれる最高の映画。
冒頭のシーンで一瞬引いたけれど、退屈しない、いい映画でした。ウォン・カーワァイの映画は、この作品を見てから大好きになり、数ある監督作のなかでも、「何度でもみたい映画」のひとつになってしまいました。ゲイのカップルのファイ(トニー・レオン)もウィン(レスリー・チャン)も、どちらも破綻しているのに、お互いを求めてしまう。哀しみ・焦燥感、切なさが漂う映画。ゲイ・カップルの話は好んで見るタイプではないけれど、この映画はそんなことぜんぜん気になりませんでした。なんでもこの映画、撮影をしながら話を作っていった「なりゆきまかせ」的な映画だそうで、トニー・レオンの画面からあふれる哀愁漂う演技は、実は演技じゃなくて、マジで「かんべんしてくれよ」的な感じだったのかもな…なんて思いました。「なりゆきまかせ」っぽく、途中からチャン・チェンが突然登場し、それまでの暗さがウソのように明るさを振りまくのですが、それが...この感想を読む
「世界の果ての灯台」は、悲しみを捨てに行くところ。
くっついたり離れたりを繰り返し、相手にうんざりしながらも、会えばまた受け入れてしまうゲイカップル。今度こそ別れよう、と決意しつつ、失うことのできない相手の存在をやどしながら、新しく出会った男に惹かれてしまう…というお話。ぐだぐだなゲイ・カップルをトニー・レオンとレスリー・チャンが熱演し、この役柄が二人の代名詞のようになってしまいましたが、それもむべなるかな。三人の男の存在感が、かぎりなく生々しく迫ってきます。雑多な色彩と、陰影の濃いウォン・カーウァイの映像が、男達の白さを襲いかかるようでさえあります。クライマックスの「世界の果ての灯台」で聞くカセットテープ、あれはなんて美しい仕掛けなんだろう、とちょっとクラクラきてしまいました。「愛」のどうしようもなさを、体当たりで演じている、純度の高い恋愛映画。ピアソラの音楽がまた、情感をたかめてイイんです。