希望の光が微かに見えます。
女子高生が自殺を図った、という内容から始まります。
女子高生が自殺を図り、現在意識不明である、という報道内容から物語は始まります。最初から人が死ぬのか、重たい内容から入るなあとタイトルの母性とはかけ離れているなと思っていました。けれど、その女子高生の母親が、「愛能う限り、大切に育ててきた娘がこんなことになるなんて信じられません」とコメントを発表する。このコメントをポイントに、物語は進みます。
湊かなえ先生の作品を手にしたのはこの作品で2作品目です。今回も重たいなあ、最後は救われるといいなあと願いながら、読み進めました。
母の手記、娘の回想、母性について、リルケの詩
視点は三つ。ネタバレになってしまいますが、[娘の回想]で主人格になる女の子(ここでは娘とします。)は[母性について]でも主人格として話を展開させています。小説冒頭は[母性について]ですが、その新聞記事のような内容に娘が興味を持ち、自殺を図った女子高生はどういう思いで自殺をしたのかを探ろうとします。自分の過去に酷似しているから、娘はその背景を憂い、また、自分のお腹で育つ新たな命についても思うところがあるため、居ても立っても居られない、という印象を受けました。
リルケの詩、は物語全体の主人公、ここでは便宜上、母親、としましょう。母親の実母が愛読していた、また母親と夫との出会いや結婚までを結びつける要素として、要所要所で紹介されます。物語を深く知る上で詩を分析したり、物語に重ねて情緒的に読むのも味があると思いますが、ここでは割愛させていただきます。
娘の名前が最後に出てくる。
こういう設定が私は結構好きです。読んでいて名前が呼ばれなくても違和感なく、すんなりと受け入れて、ここぞという時に温めておいた名前を母親が叫びます。実際には娘自身が自分の名前を思い出す、という文章で名前が出てくるのですが、この構成のおかげで、母親が抱く娘に対する母性の強さが表現されているようだと思いました。
名前を出すことで、娘を個人として捉える、という母親の成長も描いているのかな、と思いました。
母親は実母のことが大好きで、幼い頃のまま実母に褒められ、認められたいという欲求の強い母親になります。
実母は娘を産んだことをとても喜び、孫を母親と同じように愛します。その光景が微笑ましいのに、どこかで娘に嫉妬していることを自覚し、だんだんと不満を抱えていきます。
しかし、災害によって実母を亡くし、その代わりに助かった娘を「愛能う限り」大事に育てようとするのです。しかし、実母のように育てようとしても、子が違えば思い通りにはいかないのが育児です。母親は自分が与える愛情をどうしてわかってくれないのだろうと無意識のうちに娘に態度で示すようになります。ほとんど無意識に、娘を心の底で拒絶し始めてしまうのです。
私も女なので、自分の母親の愛情が疎ましいと思ったことは何度もありますし、自分の意思とは違うことを言われることに心底嫌気がさした時期もありました。でも、この物語の娘のように、少しでもお母さんのために何かをしてあげたい、と常々思っていました。ですが、全て裏目に出て、結局お母さんの足手まといになったり、マイナスになることをしていたと思います。
しかし、親の心子知らず、子の心親知らず、でお互いがお互いを思っていても、通じ合わない、噛み合わないときはあるんだと今になっていい思い出として記憶に残っています。
母親と娘の心情が、私と私の母親に似ていて、なんだか他人事ではないような気持ちになりました。私が良かれと思っている気持ちだけでも汲み取ってくれたら、評価してくれたら、ちゃんとひとりの人間として認めてくれたら、少しは娘も救われたのではないかと思います。
父親が浮気!
だめでしょ!ともうこれにつきます。母性というタイトルなので忘れがちですが、お父さんは無愛想で妻である母親のタイプではなかったのですが、リルケの詩を愛読しているということ、実母が認めた人ということで結婚します。ですが、最後の最後で浮気して、その浮気相手と母親の実母の家で逢い引きし、暮らします。私はこのシーンで顔が熱くなるほど腹が立ち、そして呆れてしまいました。
さらに浮気相手が娘に対して、あなたを助けるためにおばあちゃんは亡くなったのよ、なんて告白してしまうものだから、娘は首を吊ってしまったのです。本当に我関せずの空気と化したこの父親に腹が立ちました。
これ以上書くと文句になってしまうので、ここまでにしますが、父性というタイトルであったなら、どんな設定の父親になったのだろうと思案しました。きっと、より母性を浮き立たせるために、地味で目立たない、少し卑怯な父親にいたんだろうと勝手に納得しました。
しかし、親娘の愛が離れるか壊れるかという時に自分だけ憩いの場を求めるなんて、これもまた、自分の家庭事情にほんのり似ていることから、違う角度で感情移入してしまいました。
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