ある日突然、大切な人を亡くしたらあなたはどうしますか?
みかげと雄一/キッチン
この物語は、主人公みかげとみかげの祖母の知り合いだった雄一とその母えり子の物語。
ひょんなことから、雄一の家に住むことになったみかげ。
育ての親だった祖母が亡くなってしばらくした後に、「困ってると思って」と同居を提案してきた変な男の子が雄一だ。そして、みかげもそれを受け入れる。
親を亡くし、育ての親だった祖母を亡くし、二度の肉親の喪失で生きることで精一杯になってしまったみかげ。
それを救ったのが、雄一と母のえり子さんだ。
優しいけどどこか人間味に欠けている雄一。
母のえり子さんも「あの子の性格は手落ちがある」と認めてしまうほどである。
そして、恋愛どころではなく生きていくことで精いっぱいのみかげ。
みかげと雄一の間に『恋愛』の二文字は全く見えない。
どちらかというと、恋愛ではなく『家族愛』や『兄弟姉妹の愛』にとても良く似ていると感じる。
足りないところを補い合って、助け合って生きているというのが二人にぴったりの見解だ。
彼なりのそっけない優しさに、みかげは次第に救われていくのだ。
感謝や見返りを求めるのではなく、憐れんで優しくしているのではなく、ただ人として尊重した優しさで接してくれる。
その優しさにみかげも救われ、次第に自分の道を探して歩みだす。
雄一の優しさは、確かに他の人の優しさとは種類が違うかもしれない。
けれど、『本当の優しさ』とはこういう事ではないのかとハッとしてしまった。
何も求めない優しさ、を与えることが自分にできるだろうかと考えさせられた。
二人に迫ってくる厳しい現実に、転びながらすれ違いながらも懸命に乗り越えていく。
ここぞ!という時に的確に道が交差して出会ってしまうのは運命としか言いようがないだろう。
離れたくても離れられない、いわばソウルメイトのような二人なのだ。
そして、いつか二人で「あんなこともあったよね」と笑い合っていて欲しい。
この物語に続編があるとすれば、そんな未来を描かずにはいられなかった。
必死で生きるさつきの葛藤/ムーンライト・シャドウ
❝神様のバカヤロウ。私は、私は等を死ぬほど愛していました。❞
これは、主人公のさつきが言った言葉だ。
この一言で、私は息が出来ないほど胸が詰まった。そして涙が溢れた。
この話は、簡単に言えば普通に恋愛をしていた女の子が突然交通事故で彼氏を亡くして生きようと必死で生きる話だ。
しかし、そんな一言では括れない命の重みがある。そして、苦しみが葛藤がある。
ある日突然、当たり前にいた誰かがふいにいなくなるという事に深く考えさせられた物語だった。
昨日まで会えた人に、明日は会えないのだ。
声も聞けないし、触れる事もできないし、笑い合う事もできない。
例えるなら、ある日突然道がなくなって断崖絶壁にいるような心境だろう。
真っ暗で何も見えない、そして進むべき道が分からない。
想像しただけで、ゾッとしてしまった。考えたくないと思った。
それでも、がむしゃらに足元を救われそうになりながらも必死に生きる。
無理に何か大きなアクションをしてしまうと壊れてしまうから、そっとそっと生きる。
息をするように、ゆっくりゆっくり生きて道を探していく姿がとても印象的だった。
夜にうまく眠れなくなり、毎日早朝に川のある橋までジョギンクに行くさつき。
まさにそれは、『三途の川』をイメージしてしまう大きな川だ。
無意識にその場所を折り返し地点にしていたとしても、さつきには幽霊でも亡霊でも何でもいいから亡くなった彼氏の等に会いたいと強く願っているのがわかる。
眠れない。頭の中が後悔で埋め尽くされる。心の整理がうまくつかないから、走って肉体を疲れさせて無理矢理寝る。
彼女の生活は、ただただ生きることに必死そのものだ。
何かあればフッと死を選んでしまってもおかしくない状況で、それでも抗い続けている。
みかげは、冷静に今自分に起こっている出来事をきちんと理解している。
それでも、心がついていかないのだ。全てが、ただの出来事としてしか見ることができない。
暗闇をただひたすら、がむしゃらに、前に進むしかないから進んでいく。他に選択肢はないから、血を流しながら乗り越えていくのだ。
人を愛し、そして亡くしてしまう事の絶望と生きていかなければいけないと思う葛藤を、両面からバランスよく伝えている物語だと感じた。
生と死の物語から学ぶこと
この小説は、生と死の意味を強く問いかけていると感じた。
「生きること」は当たり前のことではないのだ。そして、そばにいる人がそばにいるという事も。
今ある日常をもっともっと大切にして、大事に育てていかないと取り返しのつかない後悔を生んでしまう。
そう思うと、周りに優しくなれるから不思議だ。
生と死は、当たり前の事だが避けて通ることはできない。
今一度、周りの大切な人に感謝を告げて優しい気持ちで生きてみてはどうだろうか。
『当たり前の人生』はこの世には存在しないのだから。
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