キッチンの感想一覧
吉本 ばななによる小説「キッチン」についての感想が5件掲載中です。実際に小説を読んだレビュアーによる、独自の解釈や深い考察の加わった長文レビューを読んで、作品についての新たな発見や見解を見い出してみてはいかがでしょうか。なお、内容のネタバレや結末が含まれる感想もございますのでご注意ください。
大事にしたい本
自分の一部のような本ここまで自分の体のような、心のような、手にして開けると懐かしさを感じる本はないと思うほど静かにわたしの中に沈んでいきます。もう知っている物語が愛おしくて大事で、愛犬を愛でるような感情に似ています。可愛らしい内容ではないんですが、ばなな先生がわたしが生まれる前に発表して新人賞などを受賞したこの作品が、旅行から自宅に帰ってきたときのような安心感を与えてくれます。昔のアルバムを開く感覚に近いのかな?他のばなな先生の作品も好きなんですが、強烈なインパクトも大恋愛もしないこの作品が病みつきになって、もう何回読み返したかわかりません。はっきりした理由はありません。でも、わたしはこの作品を一生愛して、自分の子供や将来の孫に与えたいと思っています。今ではなくてはならない本の一冊となっています。みかげ、雄一、えり子さんわたしはえり子さんにいつも励まされます。彼女は男で、正しくは雄一の...この感想を読む
ある日突然、大切な人を亡くしたらあなたはどうしますか?
みかげと雄一/キッチンこの物語は、主人公みかげとみかげの祖母の知り合いだった雄一とその母えり子の物語。ひょんなことから、雄一の家に住むことになったみかげ。育ての親だった祖母が亡くなってしばらくした後に、「困ってると思って」と同居を提案してきた変な男の子が雄一だ。そして、みかげもそれを受け入れる。親を亡くし、育ての親だった祖母を亡くし、二度の肉親の喪失で生きることで精一杯になってしまったみかげ。それを救ったのが、雄一と母のえり子さんだ。優しいけどどこか人間味に欠けている雄一。母のえり子さんも「あの子の性格は手落ちがある」と認めてしまうほどである。そして、恋愛どころではなく生きていくことで精いっぱいのみかげ。みかげと雄一の間に『恋愛』の二文字は全く見えない。どちらかというと、恋愛ではなく『家族愛』や『兄弟姉妹の愛』にとても良く似ていると感じる。足りないところを補い合って、助け合って生きている...この感想を読む
すべてはここから
よしもとばななワールドの始まり(デビュー作)。祖母を亡くして、祖母の知り合いだった雄一とその母親と共に暮らすことになった主人公。描かれているのは、人の弱さや強さかなぁ、と思う。よしもとばなな作品の独特の空気感で、物語は進む。キッチンが好き、というその設定にまず共感。物語全体が大好きなのだが、一番好きなシーンは、夢の中でラーメンを食べたいと話すところ。起きて、実際に食べようとするところ。二人が確かにつながっていることがこんなかたちで提示されるとは思わなかった。夢を使ったエピソードって、小説の中では数多く存在するが、これはとても心にしみた。こんな経験ができるような人に出会いたい。
天涯孤独とは?を考えさせられる
唯一の肉親祖母を亡くしたみかげは、大学で1年年下田辺雄一にうちに来ないかと誘われて、奇妙な生活を始める物語です。人間の喪の哀しみはいつ終わるのかを知るのに良い小説でした。映画も小説とても繊細で美しい映像で、癒しを求めるには丁度良いと思います。田辺家で暮らし始めてから、天涯孤独な少女の感が薄くなり、「少しずつ、心に光や風が入ってくる」ことを感じ始めます。恋人のとの別れという衝撃的な出来事を乗り越え、やがて、ふつうの生活に戻っていく決心をするまでを優しい話で、読んで感じ良かったということはないようです。心に悩みが多い人には、過ぎ行く時間を生きるだけでなく、未来を期待できる思いになれる1冊です。
なんという事はないがいい話
よしもとばななの代表的な作品で映画化もされています。大好きだった唯一の肉親であるおばあちゃんが死んで、近くの花屋の雄一の元で暮らし始め心も少しづつ癒されていきます。よしもとばななの他作品でもそうなのですが、初期の作品で描かれていた大事な人間の死というテーマが描かれています。女性らしい恋愛事情も絡んでくるので、恋愛小説的な捉え方もされがちですが、恋愛も生死の一部と捉えてなんとか辛いことを乗り越えて、強く生きていきたいという普遍的な人間の生き方を描いていこうとする作品だと思います。説得力のあるお話で、切なくなるが最後は気持ちよく清々しいものが残ります。200万部近く売れた大ヒット作品です。