失われてゆく世界と、閉ざされた空間で育まれる密やかな愛の物語
現代社会と対照的な、消えゆく世界物が溢れかえり、毎日何かしらの新製品が発売される昨今。この物語の舞台となる島は、それとは正反対の世界だ。あったはずのものや事象が少しずつ消えていく島。それはいうなれば、緩慢に死に向かう世界だ。無国籍な雰囲気、現実から少しずれた不思議な世界を作り出すのは小川洋子が得意とするところだが、この島を蝕んでいく消滅の概念は少々わかりにくい。ある朝起きると消滅がやってきたことがわかる。だが、あったはずのものがひとりでに消え失せるのではない。例えばバラが消えたとき、風はなぜか植物園の中でもバラだけを選別し、その花びらを全て落としてゆく。バラを所有する人はバラを川に捨てる。消滅があったとき、それを所有する人は自発的に処分し、消滅させるのだ。なぜなら、持っていても既に意味をなさないから。消滅があってほどなく、人々は消滅したものに関する概念、記憶をもなくすのだ。鳥が消え、カ...この感想を読む
4.04.0
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