どこか深い安堵感で包み込んでくれるような、小川洋子の「沈黙博物館」
博物館を作るために、ある老婆に雇われた若い博物館技師は、採用され、その村に住むことになります。老婆が作りたいのは、この世のどこを探しても見つからない、それでいて絶対必要な博物館。しかし愚図は嫌いだという言葉とは裏腹に、老婆は何のための博物館を作るつもりなのか、なかなか明らかにしないのです。それでも月が満ち始めたある日、突然技師の仕事が始まります。登場人物たちは「老婆」「少女」「家政婦」「庭師」という記号のみで語られ、本当の名前が登場することはありませんし、舞台となる場所についても、固有名詞は「沈黙博物館」という名前だけです。技師から兄への手紙には新学期が春に始まると書かれているのですが、技師は老婆の家に入る前に玄関マットで靴を念入りに拭っていますし、屋敷の地下のビリヤード・ルームや100頭以上の馬が入ることのできる石造りの立派な厩舎の存在など、到底日本とは思えない雰囲気。しかしごく平凡で静...この感想を読む
4.04.0
PICKUP