博士の愛した数式の感想一覧
小川洋子による小説「博士の愛した数式」についての感想が11件掲載中です。実際に小説を読んだレビュアーによる、独自の解釈や深い考察の加わった長文レビューを読んで、作品についての新たな発見や見解を見い出してみてはいかがでしょうか。なお、内容のネタバレや結末が含まれる感想もございますのでご注意ください。
2冠にふさわしい、小川洋子代表作
現代を支配するSNSより強い繋がり2016年現在、日本の多くの人がスマートフォンを持ち、いろいろなSNSで繋がりを保っている。私はたまたま個人的なきっかけがあり、際限なく時間を奪っていくこのツールが面倒になったので半年ほど前に全てやめてしまった。自営業(&比較的自由業)で仕事をしているが、多くの場合PCのメールと電話で事足りるのを再認識し、自分の時間が大事にできている、と今は実感している。更に必要以上の「繋がり」は文章のプロを目指す自分にとって創造に専念する妨げになる、と知った。そんな中でこの「博士の愛した数式」を数年ぶりに再読した。作中で博士と「私」を純粋に結び付けているのは、お話の中盤まで「家政婦としての契約」のみである。「私」の側からすれば毎日記憶は積み上げられていき、博士に対する友愛も生まれるのだが、博士側が毎日リセットされるため、結果的に毎日彼女たちの関係もリセットされている。し...この感想を読む
博士の世界はどんな風なんだろう
春の暖かい日差しのような映画だったので、原作の小説はどんな風なんだろうと思い読みました。文章と映像で表現できるものは違うはずなのに、空気感が同じというか、暖かい、春の日差しのような小説でした。優しい物語で、読むことによって癒されていきます。子供の頭がペッタンコだからルートとあだ名を付ける場面がとても好きです。何度も何度も付けられることになります。博士が80分しか記憶が続かないからです。80分しか記憶が続かない世界は、幸せなのか不幸なのか、わからないけれど、母子との触れ合いの中での博士は幸せそうでした。癒し系の小説なので、ほっこりしたい時に読むのが良いかも知れません。
記憶
珍しく、母が読んで私に貸してくれた本。舞台は現代、そして登場人物もごく普通の人々。大きな事件も怒らず、派手なクライマックスもないけれど心に静かに残る物語。人は記憶の積み重ねで生きているといっても過言ではないような気がします。記憶があやふやになったり、失われたり、積み重ねていけなくなったときに周りとの人間関係や社会生活を維持していくのはとても難しいことのように思います。よく聞く、アルツハイマーや記憶喪失とはまた違った博士の状態は、家の中で日常生活を送る上では大きな不便はないのかもしれませんが周りの女性達の気持ちは様々なようです。淡い恋心かな。
心が温かくなる小説
事故によって80分間しか記憶できず、事故当時以前までの記憶しか持っていない元大学教授の老人(博士)・シングルマザーの家政婦(私)・私の小学生5年生の息子(ルート)、三人の物語。とにかく温かくて優しい。博士のありのままを受け入れて世話をする「私」は、家政婦という枠を超えて博士を尊敬しているのだろう。博士もまた彼女を信頼しており、やりとりが良い。又、なんといっても博士とルートの関係が微笑ましいのである。博士はルートを孫のように溺愛し大切に大切に扱うのである。数学の面白さを知ることができる点も非常に良い。数字とは単なる数の羅列ではないという事を博士の数々の説明から感じ取ることができる。友愛数・素数・美しい公式。この本を中学生のときに読んでいたら、もっと数学が好きになっていただろう。
数学って面白いかも
事故で脳に障害が残り、記憶がたったの80分しかもたなくなってしまった博士のもとへ、身の回りの世話係の女性とその子供が通うようになり、だんだんと心を通わせていく話です。何度も通うごとに、博士と母子の距離が縮まっていく様子が、なんともあたたかい。記憶っていうのは大切だけど、でもそれだけじゃないんだなぁ、と思わせてくれました。そして、私が特に気に入ったのが、数学の面白さを教えてくれたところです。私は数学が苦手だし、「素数って何?」状態でしたが、見ていくと「ああ、こんなに奥が深いんだ」と思わせてくれました。映画も、キャスティングがとてもはまっていてすばらしかったです。
老人とシングルマザーと数学
ある日、シングルマザーの私が派遣家政婦として、交通事故のため80分しか記憶が持たない元数学の教授の世話をするように頼まれて・・・のストーリー。博士のモデルとなった数学者エルデシュは有名で、数字への関心を持つ第1歩と言われていて、ついでにその本を読んでみるのもおすすめです。映画は、2006年小泉堯史監督作品で、主演が寺尾聰、深津絵里で、音楽は加古隆。視点が中学教師になったルートがクラスの最初の授業で、教授の話をするところから始まっています。とてもきれいな映像で、ドイツ風の建物に毎日菜の花畑を自転車で通う私の姿が、音楽とともにとても印象的でした。原作は、もっとすっきりした内容で、私と博士、ルートとココロに傷があるものが、オイラーの定理を中心に円を描いて、しばし仲良くするお話で、ほのぼのした読後感がします。
数学の苦手な中学生におすすめ。
事故の後遺症で80分しか記憶がもたない老数学者。お世話する家政婦、その息子。3人の関係があたたかく優しさに満ちてます。家政婦と息子の存在が80分の壁を打破してくれるのかな~と期待しておりましたが…。うーん。。ラストまで暖かい気持ちで淡々と読めましたが、私にはちょっと物足りなかったです。脇の登場人物描写が浅いのも残念。未亡人、息子の父親の事などもっと深く知りたかったです。そして、この作品の醍醐味である博士の語る数学の美しい描写。全てが数字に例えられ、あたたかく誠実に解釈されます。しかし、私にはちょっと多すぎて、正直疲れました。中学生が読むと、数学に対する苦手意識がなくなっていいかもしれません。
√ が大好きになりました
映画化もされた話題のこの小説を最近やっと読みました。80分しか記憶のもたない博士。そこへ心を通わせようと少しずつ歩み寄る家政婦さん。二人をつなぐ、家政婦さんの息子。80分しかもたない、おぼつかない記憶力でもどうにか上手く暮らしていこうと体中にメモをつける博士の姿が胸を打ち、その博士の努力をきちんと理解した家政婦さんに胸があたたまり、そして息子のルートくんが博士に可愛がられる姿、ルート君の前では急にしゃんとしてルート君を可愛がる博士、そんな風に息子が誰かに愛されるようすを見て胸を熱くする家政婦さん、この3人の様子に心がぽっかりと温まる。博士の√ルートへの解釈が一番胸を打った。なんと温かいことか。
博士の愛した数式
映画化されたのも納得の作品。80分しか記憶が持たない、というのは凄く哀しいなぁと思います。折角友達になれても、80分経てば赤の他人。そしてここでの家政婦さんの「私」はそれを体験します。80分経てば、博士とは他人。だけどそれでも必死に私は博士に接します。博士も忘れてしまっても大丈夫なように、一生懸命メモします。お互いそういう風にして記憶を埋めることしかできないから・・・。家政婦さん「私」の子供、ルートと博士の会話には癒されます。博士が本当におじいちゃんみたい。数学要素が話に絡んできますが、数学ってこんな綺麗だったんだと感動しました。数学の決まり、パターンは不思議で面白いですね。
数学を通して伝わる愛情
17年前起きた交通事故で記憶を80分しか保てない数学者「博士」とそこに勤める家政婦「私」とその息子「ルート」の物語。映画化もされた作品。数字の秘密を通して、通い合ってくストーリー学生時代数学の苦手だった私でも読むことができました。数学で使われる美しい言葉とそこに隠された意味が主役3人の心温まる物語をさらにいっそう引き立てています。悲しくて泣ける本ではないです。どこかの雑誌が書いていたように恋愛話でもありません。ただ読み終わった後にえもいわれぬ快感がはしるような気がします。この本読を数学が苦手で泣きそうになっている中学~高校生に是非とも読んでもらいたいと思います。
数学が苦手な人も、これを読めば数学が好きになれそう。
80分しか記憶がもたない博士と家政婦さん(と息子)とが、数字を通して心を通わせる物語。最初から最後まで博士の数字に対する真摯な愛情がぎっしり詰まっていて、こんなふうに数字を楽しむことができるのか、という発見がたくさんあり、数学が苦手な人にこそ読んで欲しい一冊です。考える楽しさや発見する喜びを教えてもらえます。細かい所まで行き届いた丁寧な描写が、ほんの少しの悲しみと心がじんわりとあたたかくなるような静かな感動を見事に描き出しています。派手な事件やアクションはありませんが、周りの人たちに愛情をもって接し日々を大切に生きることで心が満たされるのだと感じました。