赤い指のあらすじ・作品解説
『赤い指』はミステリー作家東野圭吾が2006年に刊行した推理小説である。人気の加賀恭一郎シリーズの第7作で、『手紙』や『さまよう刃』などで題材にした、犯罪被害者の家族そして加害者の家族という、事件によって人生を変えられてしまった人々の葛藤や怒り、悲哀といった人間模様を本作でも取り上げている。既に放送されていたTBS系連続ドラマ「新参者」のスペシャルドラマとして2011年に映像化された。 事件はサラリーマンの夫と専業主婦の妻、思春期の息子、そして認知症の母親というごく一般的な家庭の中で起こる。勤務中の夫の元に妻から切迫した電話が入り、急いで自宅へ戻るとそこにはビニール袋をかけられた見知らぬ少女の遺体があった。手をかけたのが自分の息子だと知り、警察に通報しようとするものの妻の懇願により息子の将来を守るため、という名目で死体を近くの公園で遺棄してしまう。ほどなく事件は発覚し、疑いの目を向けられた家族は嘘を貫き通すために非情な手段を講じ、事件を担当する加賀はその真相を明らかにすべく奔走する。
赤い指の評価
赤い指の感想
狂気になった親子愛の行方
親子の愛情ってなんだろう?東野圭吾が直木賞受賞後に、執筆した推理小説です。登場人物には加賀恭一郎が登場し、従弟である松宮からの視点と、息子の殺人を隠ぺいした前原昭夫の視点から描いた作品。罪を犯した者の心理と、それを追いかける刑事の気持ちが交互に描かれており、違った視点からみた人間の心情が細かく書かれています。「赤い指」で一番考えさせられるのが、親子の愛情ってなんだろうか?と言う事です。子供に対する愛情は、深く強い愛情ですが、一歩間違えれば、全てを壊してしまうという事を思い知らされました。しかし、ここで言う子供への愛情は、本物の愛情ではありません。前原昭夫の妻である、八重子が子供の直巳に向けた愛は、間違った愛情だと思うのです。子供を可愛いというのは、自分自身のエゴです。それとは反対に自分よりも子供の成長を望み願い、子供に嫌われようとも勇気を正しい道へと向かわせてやる事こそが、親の義務と愛...この感想を読む
今の社会の風刺?
東野圭吾さんの加賀恭一郎シリーズの1冊です。夫、妻、子供、父、母。今、社会問題にもなっている介護や育児、未成年者の犯罪などが風刺されています。認知症となった親の介護、わがままに育てた子供、その親としての責任。崩壊した家庭の中でさまざまな思惑が混ざり、話は進んでいきます。残念ながら、いつ自分の身近に起きてもおかしく無いような、現代的な事件を恭一郎が紐解いていきます。また、加賀恭一郎と行動を共にする若手刑事と加賀の父との関係や展開、恭一郎の刑事としての心配りにも一目がおかれる作品です。タイトルの「赤い指」は作品の最後で出てくる、象徴的な1コマです。
家族ってほんとにそうかなあ? 新しいけど…なミステリ
加賀恭一郎シリーズの中でも、家族のごたごたをクローズアップした本作。時代性に寄り添った家族の造型、なかでも息子と母の関係(祖母と父、母と息子)のいびつさを冷静に描いていて、そこはさすがという感じ。ひきこもりの感じも、過度に病的になったり、オタッキーになったりせず、程良くタチが悪い感じに描かれている(ほめてます)。ある意味「嘘つきを探す」「嘘がどれかを言い当てる」のが目的の話。少ない登場人物の中でひっぱる構成はミステリっぽさを補強していると思う。ただし、結末には自分は不満を持った。無理矢理感が否めない上に、綺麗に回収する必要があったのだろうか?と疑問。認知症に対して、著者の認識が少し上滑りしているのではないだろうか。フィクションですから、現実に即さなければいけない、ってわけではないですが。自分的には少々辛めの採点となりました。