過去は、どんな内容にせよ、笑うことが出来るものよ。
時田仁子
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小説レビュー数 3,368件
主人公の自意識私はこの主人公が好きですが、そもそも山田詠美さんの作品はすべての主人公においてこれは山田詠美さん自身なのでは、と思うような一貫した存在があるように思えます。非常に個人的な感覚なのかもしれませんが、主人公には一貫して「自分は特別なのだ」という意識があると感じます。この作品の主人公である時田秀美も、「ぼくはきみたちの考えていることが読めているけれども、それを優しく包み込んで、相手にはそれを気づかせないように相手の望むとおりに振る舞ってあげている」といった自意識をすごく感じるのです。主人公は実際にはそんなことを言っていないのにも関わらず、物語からにじみ出ているのがすごく面白いなと感じました。小説内で山野さんに「優越感を一杯抱えているくせに、ぼんやりしている振りをしている」とはっきりと指摘されているのも、痛快な点です。ただ同時に「自分も皆と同じなんだ。母子家庭だけど、楽しくやって...この感想を読む
秀美が「素晴らしき淫売とくそじじいぶりのぼくの家族である。」という場面このフレーズの音のテンポ、言葉のテンポが心地よい。何度でも繰り返したくなる。「素晴らしき」と「淫売」という、形容詞と名詞の組み合わせが普段あまり耳にしない組み合わせであり、秀美の言葉だとものすごく、清々しい。秀美が黒川のことを「植草ではないけれど、気の強さで肉体と精神の均衡を保っているのだろうか。」という場面何度読み返しても、すっと頭に入ってこない。だが、解らないわけでもないのだ。肉体と精神の均衡、これが何を表しているのか。はたまた、何かを表しているのではなく、肉体と精神の均衡でしかないのか。何年後かに、この小説を読み返した時には、今とは異なった手応えを感じる気がする。この場面になった時に、頭の中を巡ったのは自分が学生だった頃である。ああ、これが、気の強さで肉体と精神の均衡を保っていたことか、と、昔の自分自身が思い浮...この感想を読む
時田仁子
主人公の時田秀美が自分の将来について嘱望している時。
時田秀美
クラスメイトの黒川が、元彼である植草と別れた理由を語るのだが、「不幸を気取っているからよ、は群れとじゃあるまいし」と返事したことに対して、秀美がそうだなと重いふける際に出てきた言葉。
時田秀美
小学生時代、秀美が「団体行動なんてつまんないや」と発した。それに対し担任は、人間は一人じゃないと生きていけないと言い、それがすごく寂しいって事ぐらいわかると返した際、「ちゃんとしてないと、お父さんがいないからだって言われるようにきっとなる。」と言われた場面で秀美が返した言葉である。