ひねくれ一茶のあらすじ・作品解説
『ひねくれ一茶』は、田辺聖子による小林一茶の生涯を描いた小説で、1993年第27回吉川英治文学賞を受賞した作品である。わかりやすく自由な俳句を生み出した小林一茶の人間像を、軽妙な語り口で描き出した傑作長編小説。 前半は、一茶が江戸を拠点に上総や下総に行脚俳人として放浪する様子を中心に描かれる。一茶の交友関係は広く、登場人物は相当な数にのぼる。後半は故郷柏原にもどり、独自の俳句の世界を確立していく晩年の様子が描かれる。一茶の相続争いの執念は凄まじく、その後50歳頃に20代のお菊と最初の結婚し、3男1女をもうけるが、幼くして2人の子を亡くし、妻のお菊も37歳の若さで逝ってしまう。けれどお菊と過ごしたこの10年間は一茶にとって「おらが春」の時代となる。一茶64歳のころには3番目の妻おやおを迎える。おやおはまもなく解任するが、家は火災で失くしてしまう…。 小説には、多数の一茶の句が紹介されていて、小説であると同時に一茶の句集ともなっている。
ひねくれ一茶の評価
ひねくれ一茶の感想
一茶爺さんの健脚ぶりに驚嘆。
江戸俳諧の巨人・小林一茶の半生を豊富な連句・俳諧を交えて描き出す長編。飄々とした句風、息をするように詠まれたというほど多い俳句の数々からは思いもよらない、自身の生涯の苦境が、著者独特のユーモアに支えられながらも、淡々と描き出されている。身内との縁薄く、長く続く遺産争いや、俳諧の宗匠としての収入を得るための門人訪問など、とにかく生涯歩きづめの一茶の健脚ぶりには実に驚かされるばかり。晩年まで家族を求め、諦めなかったその人物像に、成されなかった家族の平穏無事な生活への思いの強さが忍ばれる。一茶の実家は現在の長野県。そこと江戸とを50歳を過ぎて尚旺盛に行き来したというのだから、なんたる頑丈さ。「これがまあ終の栖か雪五尺」の句の味わいも新たになる、力作であります。