回転木馬のデッド・ヒートの評価
回転木馬のデッド・ヒートの感想
小麦粉の中にあるリアリティーを綴った小説
他とは趣の違う、村上春樹が人から聞いたとされる話この「回転木馬のデッド・ヒート」は、村上春樹が人から聞いた話を、なるべくその雰囲気を壊さないように文章にしたと“はじめに”に書いてある。私は個人的には小説の“前書き”や“後書き”はあまり好きではないし、それほど重要視もしていない。早くその小説を読みたいときは読み飛ばしてしまうことさえある。それをしないのは村上春樹やスティーブン・キングのような、私がいわば信頼している作家だけかもしれない(皮肉なことに彼らはそれほど“前書き”などを重要視していない)。彼らの書く“前書き”(この場合はこの“はじめに”と同意ということにする)はすでに物語が始まっている予感がするし、そこには何かしら見過ごしてはいけないものが潜んでいるような気さえするからだ。なのでこの小説に取り掛かる前にもきちんとこの“はじめに”は読んだのだけど、それによるとこの「回転木馬のデッド...この感想を読む
人生は回転木馬
村上春樹さんの作品の中でこれは好きだなぁって思わせてくれる作品の一つ。それがこの回転木馬。彼の作品には巧みな技術と現実味を設定が用いられている。そうすることで読み手を翻弄しているような印象設けますが、この作品はスケッチ・ブックというだけあって、個々の素材の味っていえばいいんでしょうか・・・まぁ良いところをすくい上げた表現技法は読みをのこころに侵食していきやすいです。まるで空気のように。何の違和感もなく浸透していきます。この作品は短編が8つ集まった作品なのですが、どの物語も一切手抜き感がなく、洗練されていて、構成もよく一つ一つが生きている感じ。また読み手の心に響き渡るように工夫してあるため登場人物一人ひとリの立場になりやすい点もまたいいですね。表現力の豊かさ。認識力を高めてくれるこの作品。まさに傑作です。
少しだけ奇妙な味わいの、マン・ウォッチング小説
「この本の中の物語は、事実をなるべく事実のまま書きとめた、スケッチである」という書き出しで始まる短篇集。それぞれの話は、著者自身が出会った人の話か、著者が人から聞いた話である、と前置きされている。両親の離婚の原因になったのは、ドイツの吊りズボンだった、という「レーダーホーゼン」、著者自身が学生時代に関わった、呼吸するように人を傷つける、とても美しく恵まれた女性の話「今は亡き王女のための」、毎日かかってくる無言電話をきっかけに嘔吐を繰り返すハメに陥った青年の「嘔吐1979」など。出てくる人々は特別変わった立場の人ではなく、ただそれぞれ、人生の一部分に奇妙なことが起きた、説明しづらい状況にあった、というスタンスで描かれている。これが、とてつもなく興味深く、おもしろい。妙なオチをつけるでもなく、淡々と事の成り行きを綴っていくスタイルが、内容に妙にマッチしていて、読んでいてとても不思議な気分に...この感想を読む