浅見光彦シリーズ未読でも楽しめる
浅見光彦シリーズ
私は恥ずかしながら内田康夫さんの作品を読むのは初めてでした。話が進んでいく中で、事件の第一発見者でありこの話の中で探偵役となるルポライターの浅見光彦という名前を見て、「なんだか聞いたことがある」という程度の感想でした。
解説で「浅見光彦シリーズ」とあるのを見て、テレビドラマにもなっているシリーズであることを思い出しました。(観たことはないのですが・・)
解説では浅見光彦に関する知識がなければ理解が難しいので「浅見光彦シリーズを3冊以上お読みになった方以外はお買いにならないでください」とあったのですが特段そのようなことはなく浅見光彦シリーズは初見の私でも十分楽しむことができました。確かに浅見光彦のキャラクターがなんだが個性的で、他にもシリーズがありそうだなとぼんやり思いはしました。
推理が簡単すぎることと
まずは様々なミステリーを読んでいる中で比較的推理が簡単な作品であるというイメージがありました。平野洋一が失踪した時点でこれは殺されているのではという疑問が出てきました。浅見光彦の発言でも触れられており、失踪したタイミングで確かに犯人とも思えなくもない状況ではありましたが少し考えれば、殺されていると推理できました。
犯人に関してもこれが言えます。高梨継仁が明らかに怪しい言動を行っており、素人目に見ても犯人ではないかと疑われる中で本当に犯人でした。ミステリーを読んでいる中で、この人も容疑者として考えられる、そしてこのトリックは?動機は?と考え、結果としては予想もできない結末や犯人であるというのが楽しみのひとつだとは思うのですが、どれも大きくはずすこともなく読み進められた作品でした。あえてそうしているのかもしれないと思いますが。
登場人物もわかりやすく、視点が何回か変わる作品ではありましたがそれも読みにくさにはつながりませんでした。しかし状況や結果からみて見て、視点があのように変わった意味があったのかという疑問は残りましたが、解説に、様々な視点から浅見光彦の印象を描くことでイメージを根付かせていくという記述があり、大変納得しました。
確かに様々な登場人物の視点から見た浅見光彦を繰り返し読むことでおおらかで適当なようで、さらには憎めないキャラで、しかし鋭い視点を持った浅見光彦がイメージできました。
登場人物の中途半端なかかわり方
1番気になったのは安達理沙の中途半端なかかわり方でしたね。浅見光彦になんとなく好印象を持っていることは理解できましたが、平野洋一の死体を発見するために協力する部分も理解できましたが、その後の事件解決に一切かかわってこなかった点が気になりましたね。まあ事件を解決するのは浅見光彦なので当然なのかもしれませんがなんとなく、もう少しキーパーソンのような役割があるのかと思いきや・・という印象は残りましたね。ただ彼女の発言や行動がなければ平野洋一の遺体発見ももう少し時間がかかったでしょうし平野洋一が自分の死を予測していたということもわからなかったので、キーパーソンと言えるのかもしれないですね。
突然出現したように思える共犯者
高梨に殺人を依頼された共犯者として登場した「徳瀬房次」という人物。
何やら突然登場した感がぬぐえません。前歴があり就職もできず、裏の仕事しかできないというような境遇は納得できますが人物像もはっきりせず、ここまでに何か伏線があったわけではなく、壮大な背景の下で思いもかけないメインの人物たちとの関連があるわけでもなく・・。推理が簡単だったように感じると書きましたがこの登場人物の存在だけは推理しようもなく急に現れたので予測も不可能だったように感じます。この登場人物の存在意義とはいったいなんだったのでしょうか。
ただの「実行犯」というだけで、本文にあった「彼を犯罪の道に追いやったのは、警察にも一半の責任があるのかもしれないのだ」ということを言いたいがために登場した人物だったのかなと予測しています。
釈然としない最後
そこまで信頼しているわけでもない浅見光彦に書類の存在と場所を伝えられ、怪しい言動をした上で、罠かもしれないという疑問をまったく抱かずに書類を回収に行く行動。いくら不正で歯科医になったバカ息子とは言ってもバカすぎるのではないかという感想ですね。
そもそも近藤勇の墓で書類を見つけたという浅見光彦がその書類を回収したかもしれないということは微塵も思わなかったのでしょうか。教えられた場所に書類を取りに行くだけでも愚かな行為であるのにましてやそこで殺人を犯そうとするとは・・今まで読んだミステリーの犯人の中でも1,2を争う愚かさであったような気がします。
また、最後もプライドを守るためにつかまるよりも死を選ぶという考え方がこのキャラクターに合っていないように感じましたね。プライドがあったら不正で歯科医にならないでしょうと。また、現代の警察の力をもってして、おおよその逃走場所がわかっている人間の遺体が見つけられないということも違和感がありますね。
内田さんも解説で自身の小説の書き方を「行き当たりばったり」と書かれていましたが読者としても行き当たりばったり感のあった作品だったように感じました。
ただ、話の流れが予想しやすく、それによって読みやすいという点はよかったですね。これは伏線なのか?と妙に身構える場面もありませんでした。
最初にも書きましたが浅見光彦シリーズを読んでいなくても十分楽しめる作品でした。
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