王女と新聞記者のたった一日の恋------映画史に残る永遠のラブ・ストーリー「ローマの休日」 - ローマの休日の感想

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王女と新聞記者のたった一日の恋------映画史に残る永遠のラブ・ストーリー「ローマの休日」

5.05.0
映像
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脚本
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キャスト
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音楽
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演出
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ウィリアム・ワイラー監督の「ローマの休日」が、日本で初めて公開されたのは、1954年のゴールデンウィーク直前でした。数か月語の週刊誌にこんな記事が掲載されました。「最初は2、3週間で切り上げるつもりが、フタを開けてみると、大変な騒ぎ。そして、街には、いま、この映画でデビューしたオードリー・ヘプバーンという若い女優のボーイッシュ・フェイスのイミテーションが、うようよ、あふれている」と。

映画会社のプロではなく、ファンが、作品の素晴らしさを発見したのです。それから60年以上たっても「ローマの休日」と、この映画で初めて主役を演じたオードリー・ヘプバーンの人気は衰えることがありません。まさに、映画史に残る永遠のラブ・ストーリーです。

その昔、若者たちが映画からファッションを学んでいた頃、映画を観に行くこと自体がファッションだった頃、「ローマの休日」という素敵な素敵な、素晴らしい珠玉の映画が生まれました。「ローマの休日」は、永遠のラブ・ストーリー。王女と新聞記者のたった一日の恋。現代のお伽噺です。

ヨーロッパ親善旅行中の欧州のある小国の王女アン(オードリー・ヘプバーン)は、最後の目的地ローマに着いた後、連日のハードスケジュールに過労気味。ウサ晴らしに思いきって長年の夢を決行することにします。侍従の隙を見て、たったひとり、夜のローマへ抜け出します。

ローマ駐在のアメリカの新聞記者ジョー・ブラドリー(グレゴリー・ペック)が、抜け出す直前に注射された鎮静剤が効き、道端のベンチで眠っているアンを王女と知らず助け起こして一夜のベッドを与えました。かくてローマの休日はスタートするのです。

最初は真っ直ぐ大使館へ帰るつもりだったアンも、「スペイン広場」で陽気な花売りに声をかけられたら、街の美容院で思いっきり髪を短くカットしたら、「記者会見なんて一回くらいスッポかしたって」とウキウキした気分になってしまいました。そして、今や夕べの珍客がプリンセス・アンであると知ったジョーが「特ダネ」にはやる心を抑えつつ、何くわぬ顔でガイド役を申し出るのです。

とにかく、テンポが良くて楽しくて、何度観ても幸福な気分になれるのです。"永遠の妖精"オードリー・ヘプバーンは、高貴で清潔感があって、観る人すべてが恋してしまうほど、可愛くて素敵なのです。

「トレビの泉」に「祈りの壁」、そして「真実の口」でブラドリーにからかわれて驚くアン。とってもとっても素敵な場面です。ブラドリーでなくても、彼女を抱きしめてあげたくなります。そして、「アピア街道」を馬車に乗り、「カフェ・グレコ」でお茶を飲み-------ごくごくありふれた観光コースでも、アンにとっては生まれて初めて自分の意志で行きたいところへ行って、したいことをして-------ローマは最高に自由な都!!

歩きながらアイスクリームも食べました。スクーターに2人乗りもしました。おまけに自分でスクーターの運転もしたんです。その結果なんと、警察のごやっかいにもなりました。

アンとブラドリーは、ローマ市内を廻り、お互いに愛情が芽生えてきます。アンの心の変化は、ファッションにも表われています。ブラドリーに会った時には、ブラウスの襟元まできちんとボタンを留めていたのに、街を歩いているうちに、一番上のボタンは外し、更に袖をまくり、襟元にスカーフを巻くようになります。心が解き放たれ、活動的になっていくさまが、ブラウスの着こなしで実にうまく表現されていると思います。恋をすると、ファッションも変わる。きっと、実際にあることなのです。

ジョーは、友人のカメラマンのアービング(エディ・アルバート)にだけは事情を話し、ライター型の小型カメラで、写真もバッチリ盗み撮り。笑うアン、はしゃぐアン、暴れるアン、叫ぶアン-------生まれてこのかた20年、常に抑制することを強要されてきた"感情"を、ありったけ発散させて、「初体験」の数々を体いっぱいに受けとめるアン。その輝くような一瞬一瞬が、カメラに収められていきます。

そして、夜は遊覧船でダンスを楽しみました。そこへ現われたのが「プリンセス・アン失踪」「国家の一大事」と本国から緊急招集された秘密警察の一大集団。それこそ上を下への大騒ぎをやらかした後、アンとジョーは川へ飛び込んで、追っ手を逃れます。そして、初めてのくちづけ。「そう、これが恋というもの」。

お互いに「別れ」を承知で、それを自分の心の中に包み隠し、アンは大使館へ戻ります。そっと見送るジョー。この時のグレゴリー・ペックの表情の素晴らしさ。この作品は、グレゴリー・ペックにとっても「アラバマ物語」とともに、彼の最高の作品になったと思います。

そして、この映画のクライマックスとなる翌日の記者会見。何度も観ているのに、涙ぐみそうになります。記者団の中にジョーとアービングの顔を見つけたアンは、全てを悟ります。ジョーは黙って「特ダネ」となるはずだった、そして今は「生涯最高の思い出」となった「ローマの休日」のスナップ写真をすべてネガごと、アンに手渡します。

「ヨーロッパ各地をお巡りになって、最も印象的だった所は?」という質問に、アンは王室模範解答集にはない、アン自身のオリジナルで、はっきりと答えます。「ローマ」と-------。

アンはジョーとの恋を諦めました。それが王女の分別というものだから?  確かにアンは王女。しかし、私は思います。つい昨日まで「血」や「家」、つまり自分を縛るものとして捉えていた王女という"境遇"を、この瞬間、アンは"職業"として自ら選んだのです。

誇りと自覚と「生涯最高の思い出」を持って。プリンセス・アンが"永遠の女性像"となった瞬間です。「ローマの休日」が、"永遠のラブ・ストーリー"となった瞬間です。

たった一日のローマの休日が、彼女を知的で心優しく、穏やかで厳しい、見事な女性に成長させたのです。人は皆、恋を知って、大人になるのです。

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