誰もが自分が正しいと思っている、争いはそこから始まる - 萩・津和野に消えた女の感想

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萩・津和野に消えた女

4.704.70
文章力
5.00
ストーリー
4.50
キャラクター
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設定
4.50
演出
4.00
感想数
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誰もが自分が正しいと思っている、争いはそこから始まる

4.74.7
文章力
5.0
ストーリー
4.5
キャラクター
4.5
設定
4.5
演出
4.0

目次

北条早苗刑事を通じて感じる女性の働き方

この作品では、殺人予告の置手紙をして行方不明になった女性を探すことが物語の始まりになっている。ここで、相談を受けた十津川が、女性の方が気持ちがわかるのではないかと部下の北条早苗刑事をすぐ現場に差し向ける。北条刑事が活躍する話というと、本作以外だと奥能登に吹く殺意の風などがあるが、そのような話を読むと必ず感じることがある。十津川警部はいい意味での男女平等、適材適所で北条刑事の女性らしさを操作に生かし切っている点である。

証言者が女性であると、男性刑事に事情聴取させた後にもう一度北条刑事に再度事情聴取させることで別の情報が得られたリ、また彼女独特の勘のようなものが事件解決につながることも多い。

今回は序盤だけではなく、後半でも彼女が被害者の女友達から聞き出した些細な証言が、真犯人のヒントになっている。女性としては、彼女のように自分の特性を生かした職場で働けていることは、読んでいて非常に理想的だと感じる。しかし、さすが刑事という職業柄、夜の11時でも捜査に駆り出されるのは、本当にお疲れ様という感じだ。

誰もが容疑者、十津川と亀井の勘が冴える

このミステリーは、出てくる主要人物がどこかしら犯人的要素を持っているため、状況証拠の解釈次第では犯人候補が沢山いて、誰なのか悩んでしまうという展開になっている。

そこが面白さではあるのだが、十津川シリーズの面白さが出ている点として、もう捜査が終了し、結果が出ている事件に対し、どうもしっくりこないという小さな疑いが、真実を追求していくという王道パターンがある。この作品もそのパターンで展開していく。

正直、他の県警で解決している事件を部下がほじくり返そうとしているのだから、三上本部長や本多一課長はたまったものではないかもしれないが、今まで散々その刑事の勘が真実にぶち当たっていることを思うと、いい加減杓子定規の捜査を指示せず、十津川や亀さんの勘を信じてやってほしいとも思うのだ。

昔の貞操観念の厳しさを感じる

近年、女性に貞操観念というものが極端に強い人というのはどのくらいいるのだろうか。萩・津和野に消えた女だけではなく、石狩川殺人事件などもそうだが、西村作品では女性が性的暴行を受けたことを苦に自殺してしまうというパターンがかなりある。北帰行殺人事件もそうだが、実は今回の萩・津和野の事件で捜査協力をしている私立探偵の橋本の婚約者も、レイプをされたことが原因で自殺している。

確かに、男性に性的暴行を加えられるという事は女性には耐えがたい事であり、死にたくなるほど悩む人もいるかもしれないが、最近は相手男性を訴える強さを持った女性が多く、泣き寝入りをしなくなってきている。この作品では単なるレイプではないため、事の発端となった女性木下由美子は、レイプの相手も殺して自分も死ぬという決意の元動く。婚約者とは結婚できないとそこまで思い詰めている。

性的暴行は魂の殺人とも言われるものの、最近では心に傷を負っても自分の幸せや命を投げうってしまう女性は少なくなってきているのではないだろうか。むしろ、中にはハニートラップとも言われているが、女性が男性に暴行を加えられたと事実無根の言いがかりで男性の名誉失墜や慰謝料を取ることを目的に罠にはめる事例すらあるくらいだ。

この作品を呼んでいると、一昔前の貞操への考えが随分現代と違う事や、女性が訴えることや戦うことに対して強くなってきたことを感じざるを得ない。

自分が正しい、みんなそう思っている

戦争にしても事件にしてもそうであるが、加害の側も被害の側も自分の正当性を持っている。この作品でも十津川は、連続殺人の被害者と、その家族の気持ちを考えろ、と、自分の正当性だけを主張する犯人を恫喝するが、例え被害者に前科があり、元加害者であろうと、その人間に家族があり、愛する人が1人でもいる限り、その人間が傷つけば傷つけた人間を恨むだろう。そのように感情面での報復の連鎖は、どこかで止めない限り続いていく。

それは身近ないじめなどの対人トラブルや、殺人などの犯罪だけではなく、国家間同士の憎しみあいや、先人が犯した戦争という罪を、次世代の人間がいつまでも根に持って相手民族と和解を図ろうとしないことにも通じている。

漫画版バトルロワイアルの最終巻である14巻に、田口雅之氏がかなりのページ数を要して訴えているが、傷つきあいの連鎖というのは、相手とうまくやっていく方法を見出さない限り終わりはない。

皮肉にも、漫画THEレイプマンというレイプを生業とする裏稼業を描いた作品にも、傷つけるやつは先に傷ついているという教訓めいたセリフがあり、そういった不毛な連鎖を止めるのも、十津川達刑事の役割なのだろう。

刑に服さない虚しさ

西村作品のみではなく、内田康夫作品にもある傾向だが、主犯の自殺というラストの作品が多い。

この作品もその一つである。もちろん何人も殺害すれば極刑はまぬかれないが、西村作品に至っては、犯人が極刑にされるまでを描いたものはない。そのあたりは十津川の守備範囲ではないからなのだろう。自殺は反省なのか逃げなのか?もし後者だとしたら被害者が浮かばれず、事件は終わってもなんともいえぬ虚しさが、読後によぎる。

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