ディカプリオの力と、事実という衝撃的な事実。
評価と実情の境目に埋もれてしまう視聴者は多数いる作品。
アカデミー賞に関わった作品は、非常に素晴らしいものである。
この作品においてもディカプリオの主演男優賞ノミネートを皮切りに、多数の部門でノミネートを果たしている。
しかし、この作品は、
アカデミー賞とは無関係に好ましくない映画である。
ストーリーは事実に基づく投資家の金とドラッグが入り混じった異常な企業を描いている。
もちろん見どころはある。ディカプリオの演技しかり、マーティン・スコセッシの監督手腕であったり。
また、この生々しく異常な会社が、おおよそ誇張を受けていた事が前提だが、存在していたという事実こそが、まさに見どころと呼ぶべきものだろう。
しかし、あまりにも異常なのだ。
アメリカですらそういった評価を受けた作品であるこの作品が、
日本で評価をもらえるわけもなく、また執筆者である自分も、この作品を良かったとは言い難い。
というのも、パッケージで凛々しく、そして自信に満ちた目で微笑んでいるディカプリオを見て、ついうっかり母親と見てしまったのだ。あまりにも悲しい映画鑑賞だったことは言うまでもないだろう。
ディカプリオ様様。その上に乗せられた口当たりの悪い、苦い演出。
まずは良い所ととらえられる事柄から書いていこうと思う。
まず、これが実話をもとにしているということ。
そしてその事実と謳われて描かれた描写が、これなのか。という感想は、アメリカに対しての信仰的な信頼を、大きく揺らがせられた、ある意味重要な知識と受け取ったほどだ。
ドラッグをやり、はんば気の狂ったセックスと異常な興奮状態。
セックスは仕事中、オフィス中、どこでもOK。
一発芸のような感覚で、女性の美しい髪が丸刈りにされ、それを行ったことでその人は百万円前後の金を受け取り、まわりは一挙として盛り上がる。
とにかく儲けたかったらドラッグをやって客を掴めと言わんばかりのディカプリオ扮する主人公は、とにかく金とそれで手に入る異常な日常を愛している。
しかし、FBIに目を付けられ、ドラッグを使いにくくされると、禁断症状と、更なる強烈なドラッグを追い始め、毎日のように異常行動を報道されれば、株主から社長を辞めさせられかける。
それでも金を愛する男は止まらない。
会社も友人も家族もすべてを無にしてでも金が欲しい。ドラッグがやりたいセックスしまくって騒ぎたい。ほとんど知恵のある野獣に等しい行動理念だった。
その全てが、スコセッシ監督の手腕と、何よりディカプリオの絶大なパフォーマンスによって、ある種痛快に描かれている。
FBIに自宅を盗聴されていると知り、その知らせの事前に飲んだ超強力なドラッグの効果によって、はいずり回って車に乗り、同じくラリっている友人が電話をしようとする際に、もはや何と表現していいものか。ただただ体を動かして電話を奪おうとしながら「FBI-!FBI-!」と叫び続ける。
これをやってのける俳優が、果たしてどれほどいるのだろうか?
映画としてはあくまでお勧めできない作品ではある。
しかし、後にレヴェナントでオスカーを受賞する際を、生放送で見るほどにディカプリオを好きになった理由が、この演技であることも、また事実である。
根本的に、良い映画とは何かを考えさせられる作品。
これは、映画である。
映画と一言に行っても、様々なものがあるのは当然だ。
大衆娯楽向けであったり、ホラーやミステリー。社会風刺を入れ込んだブラックジョークのコメディも、あまり言えたことではないが大好きだ。
ではこの作品は、何に当てはまるのか?そう。先に述べた社会風刺コメディなのだ。
だがどうだろう?異常な行動ばかりが映し出され、生々しいセックスと金とドラッグを見せられて、なにが楽しいのだろう。
それが事実であるという事を描きたい。その心は実によく伝わってきた。
しかし、自分はそんなドキュメンタリーを見たくてこの作品を選んだわけではない。
あくまで「こういうこともあったのか」程度の情報で良いのだ。これからその事実を論ずる機会はないし、それがもしあったら、映画など観ずに勉学に励むつもりだ。
その境界線を、この作品は明らかに間違えている。これほどの話題作を、大衆に向けての映画であるのならば、なぜもっと面白く作らない?なぜこんなに生々しいのだ?
それが、描いた人にとっての、この作品へのアプローチの理由であり、それが見た人の、この作品への嫌悪感になるのだろう。
とは言ったものの、自分は決して勧めないし、おそらくもう一度見るということもないだろう。何しろ三時間近い映画だ。ただ観るにしても根性がいる。
そしてもう一つ理由がある。なかなか、この映画の絵が頭から消えてくれないからだ。
もちろんすべてではないし、忘れているから、忘れたことに気づかないのかもしれない。
しかし、そうだとしても、もう十分だというくらい覚えている。
ディカプリオの演技しかり、この映画の冒頭で見せた、「ペンを売る方法」。この発想をもっていれば。というところも感心した。
新しい発見もあるだろう。
しかしそれでも、お勧めはしないし、見ることもない。
それでも、時々思い出しては、「ある種」、良い作品だったなと、思い返す事だろう。
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